1950年に制定された「造林臨時措置法」以降、政府は造林の拡大を進め、全国でスギやヒノキなどの針葉樹の植林を主導した。約70年がたった今、利用期を迎えた木が全体の50%を占めている。林業の現状と課題、そして建築との関係について、西日本有数の林業地帯である愛媛県久万高原町で地域林政アドバイザーを務める本藤幹雄氏に聞いた。今回はその前編。
林業の現状について教えてください。
よく「日本の林業は衰退している」という話を聞きますが、本当に衰退しているわけではありません。確かに木材の価格が低迷しているのは事実ですが、その一方で、現在、建築業界で使われる外国産材は原木で仕入れた場合でも国産材に比べて高いことが多い。だから、本当の意味で林業が衰退しているのではなく、国産材が選ばれにくくなっているという言い方が正解です。
選ばれにくくなっている理由として、日本の木材生産は組織的に管理されてこなかった歴史があります。論理的な管理が行われず、需要者の要求に応えるような作業ができていない。供給能力自体が低いのです。
欧米の林業は違うのですか。
欧州や米国では機械化が進むなど、組織だってインフラの整備や安全対策が行われ、製材工場までを意識した作業がシステム化されています。欧州では製材工場が住宅メーカーになっている場合も多い。米国で最大規模の林業を営むウェアーハウザー社は製材企業を買収して、製材業まで始めています。
山と製材と建築という流れが欧米ではワンセットになって動くのに対して、日本は「山は山」「製材は製材」「建築は建築」と、分断化が進んでいます。
本来、木を切って、それを流通させて、建築のことまで考えるのが林業です。ところが日本の林業は、木を切って丸太を出すところまで。それが敗因の一つです。
山、製材、建築が分断されているというのは、具体的にどのような状態なのでしょうか。
まず、資源の供給者である山側の人間が、需要者をあまり意識していません。お金が必要な時に木を切って出せばいいとか、子どものお年玉のために木を切るなんてこともあります。日本の林業は個人が中心となって運営されているので、経済の枠組みの中で動いてこなかった。つまり売り方がわからないのです。
また、山の所有者と製材工場のつながりも薄く、直接交渉することがありません。製材工場は山村の中にほとんどなく、都市の郊外にあります。そのため、山からの運搬距離がどうしても長くなり、物流コストがかかるのも課題です。
建築の設計者が木材に対して出してくる要求が、工業製品と変わらないことも問題です。今、木造建築の際には、集成材も含めて3次加工くらいまで施されたものを使わないと建てられないのが実情です。木造の知識や経験が乏しい設計者からは、過剰な要求がどんどん増えています。