2010年10月に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(公共建築物等木材利用促進法)」が追い風となり、日本でも木造建築が徐々に増えてきた。さらなる拡大を目指すには何が必要となるか。スイスやオーストリアで本場の木造建築を経験した、法政大学デザイン工学部建築学科教授の網野禎昭氏が解説する。今回はその前編。
今後、木造建築はさらなる需要の高まりが予想されます。鉄骨(S)造や鉄筋コンクリート(RC)造を主としていた設計者は、木造に対応できるのでしょうか。
非常に難しい問題だと思っています。
S造やRC造がメーンの設計者は木材や林業にあまり詳しくありません。一定規模の木造建築の経験がある人でないと、簡単に設計できないのではないでしょうか。たとえ戸建て住宅レベルの木造の知識を持っていたとしても、それだけではなかなか歯が立たないと思います。
とはいえ以前と比べると、中大規模の木造建築が増えています。
それらを手掛ける設計者の多くは、必ずしも木造のノウハウを持っているわけではありません。
それなのになぜ木造建築ができるのか。多くのケースで、設計者は集成材や接合金物などを扱っている企業からノウハウの提供を受けています。その結果、最近の中大規模の木造建築は、集成材や接合金物工法の利用が主流になっています。
一方、地域材の一般製材を採用した公共施設などのプロジェクトでは、必ず役場に地域の木材産業に詳しいキーマンが存在しています。彼らのノウハウを活用することで比較的スムーズにプロジェクトが進みます。ただし残念ながら、どこにでもそんなキーマンがいるわけではないのです。
例えば集成材メーカーには、設計者に木造の知識を伝えることができる技術部や設計部といった組織があります。しかし、一般製材を扱う製材工場にはそれがありません。これからは、ノウハウを持つ専門家をどんどん育てていかないと、中大規模の木造建築は広く普及しないと思います。
木造はS造やRC造と何が違いますか。
調達に関し、木材は工業製品とは違うので難易度が高い。大量に地域材を利用する場合はもっと難易度が高い。入手可能な木の径級、量、乾燥させるスケジュール、保管場所など、多くを検討しなければなりません。
木造の事業フローは、S造やRC造とは大きく異なります。それを知らずに木造建築を始めてしまうと、大変なことになります。
たとえ設計まではできたとしても、施工に際し予定していた木材が手に入らないというトラブルは起こり得ます。そうならないために、木材の分離発注をしたり、設計施工一貫の入札を行ったりするなど、工夫が必要です。