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⽇経BP 総合研究所は、林野庁の令和4年度(2022年度)補助事業における中⾼層・中⼤規模⽊造建築物の設計・施⼯者育成推進のための提案として、⽊造建築に取り組む実務者に向けて情報を発信している。「TDテラス宇都宮」は第一生命保険と東邦銀行が共同で建設した地上4階建てのオフィスビル。地域産材の活用にこだわり、地域経済への貢献を図る。

 地上4階建てのオフィスビル「TDテラス宇都宮」は、木架構を見せるには格好の場所に立つ。中心部の目抜き通り方面からは緩やかな登り坂となり、建物を斜め下からのぞき込む形になるため、CLT(直交集成板)で仕上げた軒天があらわになる。エントランス手前には、耐火集成材の柱・梁で構成する門型フレームが、どっしり構える。

宇都宮中心部側からの外観。通りから見ると地盤面が高いため、CLT(直交集成板)で仕上げた軒天がよく見える。建物手前の木造部分にはバルコニーが設置されている(写真:清水建設)
宇都宮中心部側からの外観。通りから見ると地盤面が高いため、CLT(直交集成板)で仕上げた軒天がよく見える。建物手前の木造部分にはバルコニーが設置されている(写真:清水建設)
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 この建物は第一生命と東邦銀行の共同ビル。両者が表通り沿いに隣り合う形で所有していた土地を一体開発した。

 開業は2022年11月。1階は福島市に本店を置く東邦銀行の宇都宮支店、2~4階は第一生命の栃木支社や宇都宮営業オフィスなどが入る。各フロア、表通りに近い部分を木造で、その奥を鉄筋コンクリート造(RC造)で構成する平面混構造だ。両社の調べによれば、ハイブリッド木造の中層オフィスは生命保険業界・銀行業界で初めてという。

建物正面。軒天と連続性を持たせたCLTパネルの天井や耐火集成材を用いた柱や梁など、屋内の木部が屋外からも見通せる。木造・木質化を外に向けて強調した(写真:清水建設)
建物正面。軒天と連続性を持たせたCLTパネルの天井や耐火集成材を用いた柱や梁など、屋内の木部が屋外からも見通せる。木造・木質化を外に向けて強調した(写真:清水建設)
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 きっかけは、第一生命が栃木支社として利用していた地上7階建てビルの老朽化である。「隣地を所有していた東邦銀行に共同建設を持ち掛けたところ、保有資産を活用し、木造・木質化によってSDGsや健康経営を推進していく開発への姿勢に共感を得られ、共同でビルを建設することが決まった」。第一生命保険不動産部不動産開発課課長補佐の加治屋大空氏は、一体開発のいきさつをこう明かす。

 木造・木質化は、早い段階から念頭に置いていた。発想の原点には、SDGs(持続可能な開発目標)やウェルビーイングといった企業経営に欠かせない視点がある。加治屋氏は「建設計画にあたっては、地域創生、QOL(生活の質)の向上、カーボンニュートラルへの貢献を目指した」と振り返る。木造・木質化の検討は、そこから始まった。

 まず地域創生。建設地の栃木や東邦銀行が本店を置く福島では、林業は主要産業の一つだ。木材としては、栃木には八溝山系のスギが、福島には南会津のカラマツがある。地産地消型のサプライチェーンを築ければ、地域経済に貢献できる。

 次にQOLの向上。「木造・木質化された空間が生産性の向上につながったり、インフルエンザのまん延を抑制したりする効果が見込めるという調査研究がある。健康的なオフィスを施設利用者に提供できるという強みも見込める」(加治屋氏)。