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CLTパネルと耐火集成材を用いた平面混構造

 最後にカーボンニュートラルへの貢献だ。木造・木質化は、二酸化炭素(CO2)を吸収・貯蔵した立木を、そのまま木材として建物に使い続けることができる。部材の製造・施工過程でCO2の排出が多い構造体と異なり、建設段階でのCO2排出も抑えられる。

 ただ木造・木質化を実現するには、建築コスト面や建築技術面の課題を乗り越える必要がある。そこで手を組んだのが、中高層ビルの木造・木質化に向け技術開発に取り組んでいた清水建設(東京都中央区)だ。ハイブリッド木造の採用は、同社と検討を進める中で、木造・木質化の課題を乗り越える具体策として打ち出された。

鉄筋コンクリート造と木造の平面混構造。耐火集成材やCLTパネルには、栃木・八溝山系のスギや福島・南会津のカラマツといった地域産材を活用する(資料:清水建設)
鉄筋コンクリート造と木造の平面混構造。耐火集成材やCLTパネルには、栃木・八溝山系のスギや福島・南会津のカラマツといった地域産材を活用する(資料:清水建設)
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 木造はほかの構造形式に比べ、建築コストが割高になりがちなうえ、耐用年数が短いことから、減価償却負担がかさむ。「ところがそれでは、賃貸ビルを借りて拠点を構える方がコストメリットが大きくなる。そこでRC造を中心とするハイブリッド木造を採用し、コストの低減や償却負担の軽減を図った」と、加治屋氏は説明する。

 技術的な課題の解決を図るため、林野庁補助事業の「CLT活用建築物等実証事業」の採択を受けた。CLTを用いた建築物の設計や施工などの実証に要する経費について、10分の3(または2分の1)以下の助成が受けられる。「補助事業の活用によって全体の建築コストを7%程度低減できており、補助事業がコスト低減に一定の役割を果たしている」(加治屋氏)。

 構造計画上、RC造部分で水平力を負担し、木造部分は2900mmピッチで並ぶ門型フレームで自重を受け持つ。木造部分のスラブはCLTパネルとRC床の合成床版。梁の間に、ラグスクリューボルトを組み込んだ型枠兼用の厚さ150mmのCLTパネルを落とし込み、その上に鉄筋を組んだうえでコンクリートを打設した。合成床版とすることで、梁間方向で10mのスパンを実現したほか、床振動の軽減や産業廃棄物の削減を図った。

 柱と梁に用いたのは、清水建設が開発した耐火集成材「スリム耐火ウッド」。この耐火集成材は一般の耐火集成材と異なり、燃え止まり層を強化石こうボードと耐火シートの2層で構成し、耐火性能を高めたもの。2時間耐火と1時間耐火の認定を取得済みで、ここでは1時間耐火仕様を用いた。

木造部分の断面構成。耐火集成材の梁の間にCLTパネルを落とし込み、その上部にコンクリートを打設することで、梁間方向で10mのスパンを確保した(資料:清水建設)
木造部分の断面構成。耐火集成材の梁の間にCLTパネルを落とし込み、その上部にコンクリートを打設することで、梁間方向で10mのスパンを確保した(資料:清水建設)
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 木造・木質化の実現に向け第一生命と東邦銀行がこだわったのは、地域産材の活用だ。サプライチェーン上で生じるコストを抑え、CO2排出を削減するには、八溝山系のスギや南会津のカラマツといった地域産材からスリム耐火ウッドやCLTパネルを製造・加工する工程も圏域内で済ませる必要があった。