軽量化で既存杭を残し工期短縮
そのうえで、屋外木部には耐久性の高い木材保護塗料を用いた。幕板だけ着色で仕上げたのは、軒天に比べ日差しが当たりやすく、紫外線の影響を受けやすいから。「塗り替え周期は3~5年を想定している」(加治屋氏)。軒天の塗り替え時は、その下に巡らすバルコニーから容易に作業できるように、塗り重ね可能な保護塗料を用いている。
TDテラス宇都宮で使用した木材の材積は約306m3。林野庁が2021年10月に作成した「建築物に利⽤した⽊材に係る炭素貯蔵量の表⽰に関するガイドライン」を基に計算すると、炭素貯蔵量はCO2換算で約206tになる。この数値は、23.4haのスギ人工林が1年間に吸収するCO2量に相当するという。
木造・木質化は冒頭紹介したようなメリットにつながるほか、結果として工期短縮というメリットも生み出している。階数の見直しや木造化の採用によって躯体が軽くなり、それが直接基礎の採用を可能にしたからだ。地元の渡辺建設(宇都宮市)とともに施工も担当した清水建設で東京支店栃木営業所工事長を務める深谷武志氏は、「既存の杭をそのまま残せたことから、おおむね1カ月半、工期を短縮できた」と説明する。また既存の杭を残せたことで、建設段階でのCO2排出を抑えられたり産業廃棄物を減らせたりもしている。
既存の杭を残したのは、栃木支社ビルが立っていた第一生命の所有地。地盤として利用するための健全性を非破壊試験で確認したうえで、既存地下躯体内を流動化処理土によって埋め戻した。これに対して東邦銀行の所有地は、「テノコラム工法」と呼ばれる、それとは異なる柱状改良工法の一種で地盤を改良した。
そのため、構造設計では異種改良の組み合わせであることを見込む必要があった。「その見込み方に問題がないか、一般財団法人ベターリビングの評定を受け、お墨付きを得ることができた」。設計を担当した清水建設設計本部業務施設設計部設計長の笹崎慎氏はこう説明する。
木造・木質化は、この建物のように一般流通材を用いない場合、必要な部材の調達に時間がかかることから、建築主側に早期の意思決定が求められるという側面がある。加治屋氏は「構造材は早めに発注する必要があることから、例えばそこに取り付けることになる照明や設備については、その位置を早期に決めることが求められた」と振り返る。
第一弾は自社ビルでの挑戦だったが、第一生命では今後、木造・木質化を不動産賃貸事業で展開していく方針だ。「ここで培った木造・木質化の知見を、今後は自社で供給する賃貸ビルの建設や管理運用に生かしていきたい」。加治屋氏はそう将来をにらむ。
TDテラス宇都宮
- 所在地:宇都宮市泉町
- 地域地区:商業地域、防火地域
- 敷地面積:2008.66m2
- 延べ面積:2447.73m2
- 構造:鉄筋コンクリート造、木造
- 階数:地上4階
- 用途:オフィス、銀行店舗
- 着工:2021年8月
- 完成:2022年9月
- 建築主:第一生命保険、東邦銀行
- 設計:清水建設
- 施工:清水建設・渡辺建設共同企業体