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 歓楽街と伝統的な商業の街――。そんな東京・五反田エリアに2018年7月、テック系スタートアップ企業の団体「五反田バレー」が発足した。既存産業に代わってIT企業が集積し、品川区の代表的な産業になろうとしている。なぜスタートアップを惹きつけるのか、実態を探るべく記者が潜入した。

今回の対象地域は東京・品川(五反田)を中心にした一帯(赤枠。灰色は前回の対象地域の渋谷)
今回の対象地域は東京・品川(五反田)を中心にした一帯(赤枠。灰色は前回の対象地域の渋谷)
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 「地面師なんているんだね」「あの目黒川沿いの廃旅館でしょ」。

 2017年夏、JR五反田駅近くの土地取引をめぐり積水ハウスが約55億円をだまし取られた被害が明るみに出た。警視庁が2018年10月に地面師グループを逮捕するに至り、五反田エリアに集まるスタートアップ企業の間でも大いに話題となった。世間を驚かせたこの事件は、中堅スタートアップ企業が五反田に引き寄せられる理由の一端を示している。

積水ハウスが約55億円をだまし取られる詐欺事件の舞台となった「海喜館」
積水ハウスが約55億円をだまし取られる詐欺事件の舞台となった「海喜館」
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 「自転車をエレベーターに乗せられるかを必ず聞いた」。スキルのEC(電子商取引)サイトを手掛けるココナラの南章行社長はオフィスを五反田エリアに移転したときのことを振り返る。「ベンチャー企業にいる人のほとんどは通勤ラッシュが嫌い」と笑う南社長は、社員が徒歩や自転車、すいている電車で通いやすい物件を探した。

 大手不動産会社が所有する大型のオフィスビルでは、自転車をエレベーターに乗せられる例は少ない。しかし五反田エリアは、廃旅館をめぐる事件で明らかになったように駅近くの一等地でも個人や中小企業の地主が目立つ。そのため「五反田のオフィスビルはオーナーの融通が利くケースが多い」(ココナラの古川芙美経営企画グループ広報・PRリーダー)のだ。ビルの9階にあるココナラのオフィス内には、社員が通勤で使う自転車がいつも5台前後置かれている。スタートアップに合う自由闊達な環境を維持でき、「職住近接」を実現しやすい。そのうえで賃料もそれほど高くないのが五反田エリアだった。「埼京線が通っているJR大崎駅からも徒歩圏内なので、埼玉県などから通う社員の負担もそれほど大きくならない」(南社長)

ココナラのオフィスには社員が通勤で使う自転車が置かれている
ココナラのオフィスには社員が通勤で使う自転車が置かれている
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中堅スタートアップの適地、立地理由は「賃料が手ごろ」

 2012年創業のココナラは2017年1月に渋谷から五反田に移転した。社員が30人程度まで増え、成長を見越して150坪強のオフィスを探そうとした。「マンションの1室とか50坪前後の物件なら渋谷でも数多く見つかるが、それより大きい規模になると物件数が少ないし、賃料が高かった」(南社長)。ネット宅配クリーニングサービスを手掛けるホワイトプラスも偶然、同時期に渋谷から五反田に移転した。少人数の従業員から成る立ち上げ時期を乗り越えて数十人規模の成長ステージに移ろうとする中堅スタートアップ企業が、手ごろな賃料と規模のオフィス環境を求めて渋谷から離れていく現象は「もう止められない流れだろう」とココナラの南社長は指摘する。