「なんか法面が立ってきた」
いざ法面工事に取り掛かって1カ月がたった頃、「なんか法面が立ってきた感じがしないか」という現場作業員の何気ない一言から騒ぎとなった。確かに、近くに寄って法面を見ると、1対0.5で造成したはずなのに、1対0.45くらいだろうか、明らかに手前に傾いてきているのだ。
補強鉄筋が効いていないのか――。原因はすぐには分からなかったが、緊急に押さえ盛り土を実施した。変状が収まったのを確認した後、土かぶりの浅い1本の補強鉄筋がどのような状態になっているのかを掘削して確認した。
すると、本来は直径65mmであるはずのグラウトの外径が、平均で30mm程度しかなかった。さらに、作業員からの聞き取りで、削孔後にボルトを挿入する際、孔壁に引っ掛かることが相当あったことが判明した。
これらのことから、削孔してからグラウトの注入とボルト材の挿入までの間に、孔壁がせり出した可能性が高いと推測できた。軟質な崩積土を単管掘りした場合には十分に起こり得る現象だ。
実は、孔壁がせり出しにとどまらず崩れてしまえばボルトの挿入ができないので、二重管掘りなどに変えることも考えられた。二重管掘りならば、軟質な地盤でも孔壁を保持できる。しかし、せり出し程度だったので、単管掘りのまま施工した。
グラウトの外径が現状の直径30mmの条件では、どの程度の安全率になるのだろうか。急いで安定解析を実施した結果、安全率は0.974しかないことが分かった。直径65mmの場合と比べて、24%も低下していたのだ。