住宅の耐震性能の確保で重要な役割を果たす面材耐力壁の施工で、くぎをめり込ませると耐力が低下することが実大実験の結果から分かった。今回は面材耐力壁の試験体に加わる荷重の違いから面材の粘りに生じた影響を見ていく。5つの試験体の結果を包絡線で比較しながら、耐力の違いを見ていく。
くぎのめり込み量が異なる5つの試験体の差を明確にするために、ある軌跡を用いて比較していこう〔図1〕。この軌跡は、面材の変形角を変化させて加力していく実験における1往復目のプラス側のデータを抽出して結んだグラフだ。規定変形角時の最大荷重と耐力の変化が分かりやすくなるように値を抽出。水平変位が200mmに到達するまでプロットした。
この軌跡で比較すると、いずれの試験体も0mmと比べると性能が悪化していると分かる。そのポイントとして、主に3つの違いが見て取れる。
1つは水平変位が48mm付近までの部分だ。めり込み量が0mmの試験体よりも他の4つの試験体の荷重が上回った。これは、いずれの試験体も初期剛性が0mmの試験体よりも高くなっていることを示す〔図2〕。
くぎが深くめり込むほど、耐力壁の初期剛性が高まると考えてよいのだろうか。実験の監修を務めた神谷文夫氏は次のように分析する。
「今回の結果を見る限りでは、くぎが深くめり込んだ試験体ほど初期剛性が高くなっているものの、試験体のばらつきが現れた可能性もある。既存の研究データもなく、この結果だけでは関係性は明言できない」
一般的には、耐力壁の評価をする際には、同じ条件の仕様につき試験体を3体用意する。3体検証すれば、ばらつきの影響を検討できる。だが今回の実験では、1種類につき用意した試験体は1体ずつだ。そのため、くぎのめり込み量と初期剛性の関係性を明言するのは難しいという判断に至った。
とはいえ、初期剛性が上がれば、躯体に入力される地震力が大きくなる。耐力壁の粘りが低下する事態が同時に生じれば、「建物にとってリスクが高まる恐れがある」と神谷氏は続けた。