100年に一度といわれる再開発が進む東京・渋谷駅周辺。「谷地形を克服し、文化を発信する」という東京急行電鉄(東急電鉄)創業者の理念を貫き、「渋谷ストリーム」の建設を先導した1人が西澤信二氏だ。足元まわりには、創造を生む余白空間を配置することにこだわり、新たな文化の発信につなげる。
2018年9月に渋谷ストリームが開業しました。渋谷の街にとってどのようなインパクトを持つのでしょうか。
渋谷ストリームの2階にある貫通通路、地下と地上の歩行者ネットワークとをつなぐ縦動線の「アーバン・コア」、官民連携により整備された渋谷川沿いの遊歩道などがつながったことで、新たな人の流れが生まれ、谷地形が街に開き始めました。これで渋谷の未来が見えてきたと思っています。
渋谷の個性は、約20mの高低差がある谷地形です。高度成長期に道路や高速道路、鉄道が街を4つに分断し、それぞれのエリアで発展してきました。現在行われている駅周辺の再開発は、それらの街を歩行者ネットワークでつなぎ、異なるエリア同士が交わることで化学反応を起こし、渋谷の街を魅力的に変えていく事業です。渋谷ストリームは、代官山方面への歩行者ネットワークの起点にもなります。
渋谷ストリームで西澤さんは、どのような役割を担っていたのでしょうか。
東急電鉄の都市開発事業には、マーケティングに基づき商品企画をし、それをデザインにより空間化する開発事業、そして運営事業という大きく2つの業務があります。今回は渋谷ストリーム着工後の約3年間、統括部長という立場で開発事業を担当しました。デザインアーキテクトのCAt(東京都渋谷区)が打ち出したコンセプトを軸に、開業までにしっかりとプロジェクト全体を仕上げるプロデューサーに近い仕事です。デザインの精度を高めることで、利用者の評価も上がり、ひいては街のブランディングにつながります。
渋谷ストリームで最も重視したのは、どんなところですか。
低層部を貫く貫通通路です。風が抜けるポーラス(多孔質)な空間で、この地に以前あった東急東横線の線路線形の記憶を残しています。CAt代表の小嶋一浩さんが亡くなる直前に、「デジタルサイネージなどの環境演出も建築と一体化したデザインにしたい」という意向をお聞きしました。50年、100年と変わらないもの、10年で変化するもの、季節や時間によって変化するものをしっかり性格付けし、ショッピングセンターのように短期的に消費されるような表現とは違うものにしようと、小嶋さんの遺志を受け継ぎました。
既に設計が終わりかけていた2017年に、CAt代表の赤松佳珠子さん、照明デザインの岡安泉さん(岡安泉照明設計事務所、東京都千代田区)に相談し、環境演出のデザインチームを立ち上げました。映像クリエイターのWOW(ワウ、東京都渋谷区)も加わり、大階段の演出照明などでアーティスティックな空間に仕上げてくれました。フィニッシュデザイン(完成度)より、プロセスを重視する彼らの空間のつくり方に、私も刺激を受けました。
オフィス階には、今後グーグル合同会社の本社機能が移転入居予定で、渋谷ストリームはさらにクリエイティブワーカーが集う場所になります。アイデアが生まれる環境とはどういうものかと考えると、空間に余白を残すデザインが大切になります。足元まわりの広場や大階段などの空間から適度な刺激を受け、自由な発想が浮かぶ場になったのではないかと思っています。