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企業が2019年に成長するための「最強のデジタル戦略」とは。このテーマについて、日本を代表するCIOやCDO、有識者など40人が議論した。日経 xTECHが2018年11月21日に開催した「ITイノベーターズサミット」で出た発言のポイントを紹介しよう。

 デジタル先進企業のキーパーソンに、2018年に力を入れたことと2019年に実現したいことについて語ってもらった。評論家には話せない内容は、大いに参考になる。

関係なさそうな社内プロジェクトにも顔を出す

――全日本空輸 業務プロセス改革室 イノベーション推進部 部長 野村 泰一 氏

 全日本空輸(ANA)の野村泰一氏は、同社のデジタル化を推進するリーダーの1人だ。同社のIT部門である業務プロセス改革室に所属し、主に既存業務のデジタル変革を主導している。2018年は「ダンゴムシ」や「ミツバチ」といった独特なネーミングのワークショップを社内展開し、既存業務の課題解決や顧客サービス向上のアイデアを募り、実現に向けて奔走してきた。ワークショップで発案された新サービスの企画を次々と、プロジェクトに落とし込んでいる真っ最中だ。

 野村部長は2019年に目指すIT部門の在り方について、こう語る。「標準ルールにのっとってシステム化の要望を審議したり、ITプロジェクトのQCD(品質、コスト、納期)を管理したりするだけの組織ではつまらない。事業部門から出たアイデアに、テクノロジーの付加価値を加えて実現する部門になりたい」(野村部長)。

全日本空輸の野村泰一業務プロセス改革室イノベーション推進部長
全日本空輸の野村泰一業務プロセス改革室イノベーション推進部長
(撮影:井上 裕康、以下同じ)
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 既に、一部は実行に移している。例えば、事業部門からの要望をIT部門が審議する会議では、こんなやり取りをしているという。本来はシステム化の可否を判断するだけの会議だが、野村部長はそれだけで終わらせない。「別の部門が進めているプロジェクトに相乗りすれば、もっと安く早く、より多くのことができる」など、社内外の人脈を生かしたアドバイスをして、事業部門の期待を超えるように努める。

 さらに野村部長は「2019年はITと関係ないように思える社内プロジェクトにも、どんどん顔を出していきたい」と意欲的だ。例えば、ANAがオフィシャルパートナー(旅客航空輸送サービスカテゴリー)を務める2020年東京オリンピック・パラリンピックや、健康経営、なでしこ銘柄などのプロジェクトを想定している。

 イノベーションは、一見何の関係もない分野の知見が組み合わされることで起きるとも言われている。野村部長がやろうとしていることは、まさにそれだ。これまでITとは無縁だった取り組みであれば、ITを活用することで思いがけないサービスが生まれる可能性は大いにある。

 副次的な効果も狙っている。「テクノロジーが有効に使われていなかったプロジェクトにIT部門が関与すれば、従来は取得できていなかったデータを蓄積できるといったメリットがある。そのデータは別の用途で活用できるだろう」(野村部長)。

 野村部長のように振る舞うには、高いコミュニケーション能力や根回しなど相応のスキルが要求される。だからといって、従来のIT部門にありがちだった「待ちの姿勢」のままでは、デジタル化のアイデアはいつまでたっても生まれてこない。自ら社内のプロジェクトに押しかけていくくらいの意気込みが必要だ。

顧客体験の向上のためにビジョンやKPIに重き

――中川政七商店 取締役 兼 コミュニケーション本部 本部長 緒方 恵 氏

 生活雑貨の製造小売りである中川政七商店は、創業300年を超える老舗企業である。もともとは麻織物の店だったが、近年業態を大きく変えた、その際、デジタル化によって顧客接点を強化するため、同社に招かれたのが緒方恵取締役である。東急ハンズでデジタルマーケティングなどを担当してきた手腕を買われ、2016年にCDO(最高デジタル責任者)として中川政七商店に入社した。

 CDOに就任して以来、ITを使った店舗作業の省力化から、業務システムのクラウド移行など、様々な案件に関わってきた。さらに2018年3月からは、従来のデジタル化領域に加えて、店舗や卸売り事業まで管轄するように。「店舗に直販サイト、卸売りと、当社の全てのチャネルを統括する立場になった。私の役割はオムニチャネル全体で収益を最大化すること」(緒方取締役)。デジタル化は収益を拡大する重要な手段の1つというわけである。

中川政七商店の緒方恵取締役兼コミュニケーション本部長
中川政七商店の緒方恵取締役兼コミュニケーション本部長
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 緒方取締役が目指しているのは、「『日本の工芸を元気にする!』というビジョンの下、従業員を同じ方向に向けて笑顔で走り続けること」だという。ただし、ビジョンを掲げただけでは何も変わらない。「ビジョンが日常の業務とどう関係しているのかを、従業員にきちんと説明できなければならない。同時に、現場を動かすには、適切なKPI(重要業績評価指標)の設定が欠かせない」と、緒方取締役は見る。

 例えば、こういうことだ。店員に課せられるKPIが店舗の売り上げだったとする。来店客が商品を買わずに帰ったら、店員は「またのご来店をお待ちしております」と言うだろう。しかし店舗だけでなく、直販サイトの売り上げも加味したKPIを設定していれば、「ネットでも購入できますので、ご自宅で検討ください」と言い出せるはずだ。「全チャネルを使って顧客体験を向上させるようなKPIを設ける必要がある」(緒方取締役)。