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標準の「物差し」が存在しない

 最初に制定されたISO9919には、校正法が入っていなかった。なぜなら、パルスオキシメーターの測定精度を的確にチェックできる方法が存在しなかったからだ。

 パルスオキシメーターのISO規格に関して、最近になって1つだけ大きく変わった点がある。名称はISO9919から「ISO80601-2-61」と変化し、機器の測定精度を見極める「校正法」が初めて取り込まれたのだ。ISO80601-2-61のJIS規格として発行された「JIST80601-2-61:2014(医用電気機器-医用パルスオキシメーターの基本安全及び必須性能に関する特定要求事項)」にも、この校正法は反映された。

 パルスオキシメーターは本質的に、「体外から動脈血中の酸素飽和度を測定できる」機器である。それゆえに、機器そのものの測定精度を担保するには難題が多すぎる。その解決法の1つとして提示された「校正法」が、ISO80601-2-61:2014であった。これは、生体の動脈血を基準として装置の精度を見極めるという、いわば苦肉の策だ。

 筆者は校正法の導入そのものを問題視しているわけではない。「機器そのものの測定精度を担保するには難題が多すぎる」と述べたのは、基本的に「体外から非侵襲で測定する装置」の精度を、侵襲性の大きい「生身の動脈血」を使って校正する方法論にある。

 理由の1つに、いくら動脈血そのものを使おうとも、その中に含まれる酸素飽和度(SaO2)を正確に測定できないという実情がある。通常はCOオキシメーターという機器が使われるが、その測定精度は±1%程度の誤差がともなう。

 つまり、このCOオキシメーターを使って、生身の人体の動脈血を採取し、対象となるパルスオキシメーターの精度を検証せよという乱暴な方法論なのだ。しかも、健常人のSaO2を60%以下まで下げるために、ボランティアに窒素を吸わせて実行する極めてリスクの高い方法である。

 さらに、1%の測定誤差のCOオキシメーターを使って、パルスオキシメーターの精度が2%以内にあるかどうかをチェックしなければならない。±1cm誤差をもつ1mの物差しを使って、測定対象物が±2cmに入っていることを確認せよ、と言っているわけだ。