書籍「医用工学概論」(嶋津秀昭、中島章夫編)が、日本医療機器学会の平成30年度 著述賞を受賞することになった。同学会大会(2019年6月13日~6月15日、大阪国際会議場)で表彰される。
医療機器や医用工学などに関しては、多くの類書が発刊されている。しかし全体を俯瞰(ふかん)する形でまとめられたものは少ない。その中にあって医用工学概論は、医療や医療機器の基礎学問としての全体像を把握するには、非常に優れた教科書である。学生の間では「赤本」の愛称で親しまれ続けてきた。
1987年に同名の第1版が出版になっており、今回受賞したのは2018年3月に出版された改訂版である。30年も改訂されなければ、絶版というのが一般的だろう。しかし本書は大学や専門学校などでの医用工学、あるいは臨床工学における教科書として、長年にわたり利用されてきた。筆者も授業で10年近く利用してきた経験がある。
医用工学という学問の歴史が浅かったため、旧版では本来の「医用」という目的に合致しておらず、いわば電気工学的な内容だった。「医用工学」という名が付く限り、「医療機器」の基礎学問としての資質を持ち合わせていることが必須となる。改訂によって、こうした目的への適合性を有し、医療機器の特殊性に関わる専門技術に関して、ほぼ網羅された。例えば「医用電子回路」という章が新設されている。
医用工学概論の優れている点は、次の通りだ。(1)医用工学の基礎知識を網羅して、基本的な技術要素が解説されている。(2)生体情報の取得に関して、特に重要な電極類・センサー類について詳しく説明されている。(3)医用工学の特徴としての、医療機器やシステムの安全性について詳しく説明されている。(4)旧版に比して、図版を多用することにより、理解を容易にしている。(5)キーワードを欄外に解説することで、本文の読みやすさが増している。
欲を言えば、ソフトウエアやIT関連の記述が少ないことが挙げられる。次の改訂では、本書を基本としながら、ぜひソフトウエアやITなどの新しい分野を追補してもらいたい。