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 2020年4月初旬、厚生労働省から医療機関に向けて、新型コロナウイルス感染症の軽症者を対象に「体温計」に加えて「パルスオキシメータ」を使うための指針が示された。米国などの論文や使用実績に加えて、国内でも日本呼吸器学会からパルスオキシメータの使用指針のようなものが示されたことが背景にありそうだ。

 新型コロナウイルスに感染すると、本人の自覚症状がそれほどないのに急速に肺炎が進行する場合がある。そのため「Silent Pneumonia(音なし肺炎)」とも呼ばれる。その病状を的確に把握するために、世界でパルスオキシメータの利点が再認識されている。

 急速な肺炎による「息苦しさ」は、動脈血中の酸素飽和度(SpO2)の低下が一因である。SpO2はパルスオキシメータによって数値で客観的に評価できる。米国などではSpO2が93%未満をPCR検査の受診やトリアージの一つの目安としている。WHOでも93%という数値を重症化につながる指標として示している。

パルスオキシメータに関する使用指針
パルスオキシメータに関する使用指針
(出所:各種資料を基に著者が作成)
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 人工呼吸器などによる酸素療法が必要となる目安はSpO2が90%未満とされている。これまで各国の研究機関が示した代表的なパルスオキシメータに関する使用指針をまとめてみた。数値の中には以前から認識されていたものもあるが、今回の新型コロナ対応によって世界で再認識された面もあるだろう。

 日本呼吸器学会からは、SpO2の値が91%~95%だった場合に呼吸不全の疑いがあるという数値判断が報道などで示された。米国での提言とほぼ同一の見解と考えられ、両国での認識が一致していることが分かる。新型コロナウイルスは肺炎を招き、急速な低酸素症による死亡事例につながるという共通理解もある。

 SpO2の基準値は個人差もあり、パルスオキシメータの機種による測定誤差もある。絶対値だけで判断できないケースも出てくる。しかし新型コロナウイルスへの感染の可能性を体温やだるさのみで判断するのではなく、呼吸器系の疾患指標としてSpO2の値を併用する有効性が認識されてきた。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校のブローダス内科学名誉教授によると、胸痛やせきなどは患者自身で感覚として捉えられるが、低酸素症状だけは自覚できないため、パルスオキシメータによるSpO2の数値測定が極めて有意義だとしている。