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 米Apple(アップル)が2020年9月16日(日本時間)に発表した腕時計型ウエアラブル端末「Apple Watch Series 6」は、日本の医療・ウエルネス(健康)産業に多くの示唆を与えてれくれた。筆者は医療機器の開発に関わってきたことから心電図(ECG)測定機能の日本導入の行方に注目していたが、「Blood Oxygen Wellness (血中酸素ウェルネス)」という新語(造語)の提言に衝撃を受けた。

アップルやApple Watchの動向(出所:発表資料などを基に筆者が作成)
アップルやApple Watchの動向(出所:発表資料などを基に筆者が作成)
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 まずは過去2年余りのApple Watchと心電図測定機能などの関係を振り返ってみよう。2018年に米FDA(食品医薬品局)が心電図測定機能をスピード認可したことが、アップルの医療・ウエルネス産業への参入の契機となった。しかし日本への導入はストップがかかったままだった。

 それから2年ほどになる2020年6月に、日本でアップルが「医療機器外国製造業者認定・登録」を受理されたことで壁を突破できる兆しが見えた。ただし通常では、次に必要な医療機器の承認申請を外国製造業者が行うことは不可能だ。そのため日本での心電図測定機能の利用は遅れるだろうとの予想も多かった。

 この予想に反して、2020年7月にPMDA(医薬品医療機器総合機構)から新しい医療機器の一般的名称として「家庭用心電計プログラム」と「家庭用心拍数モニタプログラム」が制定され、再注目された。これらの名称がApple Watchを対象にしているということが推測できたためだ。

 なぜ推測できたかというと、前者の定義を見ると「汎用機器から得られた情報を用いて心電図情報を取得し、さらに処理して疾患兆候の検出を支援する家庭用の医療機器プログラム……」となっており、ここに出てくる「汎用機器」とは、医療機器でないスマホなどのIT機器、すなわち「非医療機器」からの情報を意味しているからだ。

 本来、薬機法(改正医薬品医療機器等法)の常識からすれば、医療機器でないセンサーや機器類からの情報を使っての医療機器プログラムは皆無、というより日本では不可能と考えられていた。そのため筆者を含めた医療機器開発者は、医療機器の認定を受けるために時間と労力を費やしてきた。

 これに対してApple Watchなどの一般商品からの信号を処理して医療機器プログラムを作動させることは特例中の特例を認めるような解釈になる。アップル側からの度重なる要請があったのか、それとも日本の規制当局の大幅な譲歩だったのか。いずれにせよ、その「新判断」は、医療・ウエルネス業界へのIT機器の参入障壁に大きな風穴を開けたことを意味する。