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 2022年6月に開催された「BioEM2022」(生体電磁場の影響に関する学会)で、電気磁気治療器の効果についての発表があった。電気磁気治療器は、筋肉系や骨格系、神経系の疾患・疲労を非侵襲的に回復する目的で使用されている。基本原理は「生体に磁場をかけて血行を良くし、コリや痛みを取り去る」というものだ。しかし、その効果は利用者の“感覚”によって評価されているのが実情である。

 効果に関する科学的なデータが示されれば、利用者の納得感が高まるだけでなく、定量的な評価に基づく製品開発も促進される。BioEM2022では、埼玉大学とソーケンメディカル(東京・豊島)が発表した「Faster reduction of the lower limb edema with 50Hz magnetic fields(50Hzの磁場による下肢浮腫の早期軽減)」というタイトルの研究が注目を集めた。

血流量と皮膚温度、体積変化を計測

 この研究では、浮腫(むくみ)のある下肢が磁場によってどう変化するかを計測した。具体的には、最大磁束密度が180mT(ミリテスラ)で周波数が50Hz(ヘルツ)の交流磁場を被験者の下肢に10分間加えた。それによって皮膚血流量、皮膚温度および下肢体積の変化を計測したものである(図1)

図1 下肢浮腫に対する磁場の効果計測の概要
図1 下肢浮腫に対する磁場の効果計測の概要
皮膚血流量、皮膚温度、下肢体積が磁場によってどう変化するかを計測した。(出所:ソーケンメディカル)
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 計測では、下肢に浮腫のある10人のグループを2つ用意し、片方に磁場を加え、もう片方には磁場を加えないという比較試験を行った。この際、試験の実施者(結果の分析者)も被験者も、誰にどのような処置をしたかを知らせない「ダブルブラインド」という方法を採用している。通常、人体に磁場を加えると温かみを感じることもあるものの、磁場を加えられているかどうかに気づかない場合が多い。

 その結果、磁気治療の効果が「目に見えるカタチ」で示された(図2)。磁場がかけられているグループ(赤のグラフ)には磁場がかけられていないグループ(青のグラフ)に対して、皮膚血流量の増加、皮膚温の上昇、下肢体積の減少か認められる。

図2 磁場暴露による浮腫の改善効果
図2 磁場暴露による浮腫の改善効果
左から皮膚血流量、皮膚温、下肢体積の変化を示している。赤色が磁場をかけたグループ、青色が磁場をかけなかったグループの結果。いずれのグループにも磁場をかけたどうかは知らせていない。(出所:ソーケンメディカル)
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 このように、磁場による効果が数値的なデータとして示された。下肢浮腫だけでなく、「磁場暴露が前腕固定中の運動神経伝導速度の低下を抑えることができる」という発表もあった。こちらも「目に見える」データであり、これまでの感覚的な効果の類推から一歩前進した実証結果と受け止められる。