パソコンやスマートフォンなどのデジタル機器だけでなく、家電製品を含めたさまざまな製品に無線通信機能が搭載されてきている。医療機器や健康機器などにおける無線通信の利用も増えてきた。オムロンヘルスケア(京都府向日市)が2021年3月に発売した体温計「MC-6800B けんおんくん」もその1つ(図1)。2021年末までの販売台数が30万台を超える大ヒットとなった。この体温計の大きな特徴が、無線通信に音波方式を採用している点だ。
ハードの設計を変えずに無線通信を短期開発
昨今のコロナ禍において、体温測定が必要とされる機会は大きく増加した。その中で、測定した体温のデータをスマホなどに転送でき、スマホアプリで管理したいというニーズが高まっている。
実は、Bluetoothを使ってスマホと通信する機能を持った体温計や血圧計、体重計などをオムロンヘルスケアは既に製品化している。ところが、今回はBluetoothではなく音波通信を採用した。近距離の無線通信方式として代表的なBluetoothは電磁波を利用した通信だが、音波通信は読んで字のごとく音波を用いた通信である。
なぜ同社は音波通信を採用したのか。その理由の1つが開発期間の短縮だ。既存製品のラインアップの中に無線通信機能を搭載したい製品があった。しかし、Bluetoothで無線通信を実現するには部品の追加が必要になり、製品の形状や構造も変えなくてはならない。その分、開発期間も長くなってしまう。
そこで考えたのが、体温計のブザー音を無線通信に利用するというアイデアだ。電子体温計には、測定完了を報知するために「ピピー」とブザー音を鳴らすスピーカーが搭載されている。このブザー音に測定結果の情報を含めることができれば、スマホのマイクを用いて音波を受信できる。
この方法だと、従来の体温計のファームウエアを変更するだけで済む。部品の追加が不要で、製品の構造や形状を変更する必要もない。結果、短納期で無線通信対応の体温計を市場に届けることができた。生産ラインの新規立ち上げなどがいらなくなり、部品コストも含めた低コスト化を実現できた。
既存の構造や形状を流用できた点は、医療機器としての認証審査などのプロセスの短縮も期待できる。さらに、電波法上の技術基準に対する適合性証明(技適マーク等)の取得も不要になるという利点もある。