金融アナリストから、伝統建築や文化財修繕を手掛ける会社の社長に転身。早くから文化財の「活用」を訴えてきたデービッド・アトキンソン氏に、歴史的な建物を残していくための活用の在り方について聞いた。(インタビューは2018年4月に実施した)
文化財行政が、これまでの「保護」重視から、「保存・活用」に転換しようとしている。未指定・未登録のものも含め、歴史的価値の高い建物とどう付き合っていけばよいか?
保存と活用は、車の両輪だと意識する必要がある。双方のバランスを図りながら守っていかなければならない。
国の重要文化財指定を受けた建物で、保存と活用のバランスが取れた好例を挙げると?
残念ながらまだない。良い方向に向かっている例としては、国宝の「赤坂迎賓館(迎賓館赤坂離宮)」(1909年竣工、設計:片山東熊)がある〔写真1〕。重要なのは、単に一般公開するようになっただけでなく、かつてあった家具などを置き、実際の使われ方を体感できる形で見せている点だ。 参観料も、個人の大人で、本館・主庭が1000円、さらに和風別館も参観する場合は1500円と、高めに設定している。
「赤坂迎賓館」は稼いで改修
従来の感覚からすると、割高な印象を受ける。
私は、迎賓館(迎賓館赤坂離宮、京都迎賓館)のアドバイザーを務めており、一般公開では参観料を4ケタにするよう内閣府に進言した記憶がある。
従来の文化財のように、空っぽの箱を見せるだけでは4ケタは取れない。それに値する見せ方が不可欠で、実際に使われていた様子を見せているのはそのためだ。
参観料を高めにした狙いは?
赤坂迎賓館では今、長年の懸案だった「朝日の間」の改修をしている。朝日の間は、天井の絵画などの劣化が進み、改修を必要としていたが、予算が付かなかった。参観料は高めでも、見せ方を工夫したことで多くの人たちが訪れている。年間に何億円もの収入を挙げるようになり、予算が付いた。
上手に活用して稼げば、保存のための予算確保につながるか?
上手に活用して、人々の関心を集め、楽しんでもらえば、保存のための予算も増やせる。最近、そのことが分かってきて、文化庁も活用をうたうようになっている。