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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2020年9月にオンライン記者会見を開き、開発中の国産次期主力ロケット「H3ロケット」の試験機1号機の打ち上げを1年延期した。2020年5月26日に実施した開発中の主エンジン「LE-9」の燃焼試験で、大幅な設計変更を求められる2つの不具合が発覚したからだ。ここまで順調に開発が進んできていたH3ロケットになにがあったのか。日経クロステック編集部のバーチャル記者「黒須もあ」が動画で解説します。(日経クロステック編集部)

 こんにちは、日経クロステック記者の黒須もあです。今回は試験機1号機の打ち上げが延期になってしまった国産次期主力ロケット「H3ロケット」に何が起こったのか、再延期はあるのか。動画で解説します。

【解説動画】H3ロケット打ち上げ延期! 何が起こった?
【解説動画】H3ロケット打ち上げ延期! 何が起こった?
クリックで別ウインドウにYouTube動画再生(出所:日経クロステック)

 2020年度中を予定していた試験機1号機の打ち上げが2021年度の延期されたのは、H3ロケットの第1段用にJAXAが開発している大型液体ロケットエンジン「LE-9」に、大幅な設計変更が必要になる不具合が見つかったからです。

開発中の国産次期主力ロケット「H3ロケット」
開発中の国産次期主力ロケット「H3ロケット」
「究極低コストの使い捨てロケット」を実現し、世界の宇宙ビジネス市場に打って出るために開発されている(出所:日経クロステック、JAXA)
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 LE-9の最大の特徴は「エキスパンダー・ブリード・サイクル」の採用。大型ロケットエンジンではこれまで採用されたことがない形式で、構造が簡素で信頼性が高く、コストも安いのが特徴です。H3ロケットが掲げる「究極低コストの使い捨てロケット」の実現に、欠かせないピースなのです。

 見つかった不具合は2020年5月26日に実施したLE-9の燃焼試験で発生しました。実際の打ち上げに使うものと同じ仕様の認定型エンジンを使う認定試験の8回目で、実用時に起こり得る「最も過酷な条件」での試験でした。こた試験の後にエンジン燃焼室の壁面と液体水素ターボポンプのタービンの羽根の2箇所に亀裂が見つかったのです。

不具合は2020年5月26日に実施したLE-9の燃焼試験で発生
不具合は2020年5月26日に実施したLE-9の燃焼試験で発生
JAXA種子島宇宙センターにて実施された試験後に発覚した(出所:日経クロステック、JAXA)
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 1つ目の不具合は燃焼室で発見されました。燃焼室の壁面の内側に14カ所のき裂が見つかりました。最も大きな亀裂は幅0.5mm、長さは10mmもありました。この部分には液体水素を流して冷却するための溝が約500本彫り込んであります。溝を彫り込んだ分、壁が薄くなっており、ここが想定以上に高温になった結果、亀裂が生じました。

 もう1つの不具合は液体水素ターボポンプのタービンの羽根に見つかった亀裂です。タービンの羽根で、振動が大きく増幅される「共振」が起こり、羽根に金属疲労が蓄積して亀裂が発生しました。この亀裂は最終的には羽根を破壊する危険な兆候です。

1つ目の不具合は燃焼室で発見された14カ所のき裂
1つ目の不具合は燃焼室で発見された14カ所のき裂
液体水素を流して冷却するために彫り込んだ溝の部分で生じた(出所:日経クロステック、JAXA)
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 JAXAは不具合に対処するために、液体水素ターボポンプのタービンを再設計すると決めました。H3ロケットの開発を指揮するプロジェクトマネージャの岡田匡史さんは「この時点で打ち上げの延期を覚悟した」そうです。具体的にはタービン羽根形状と枚数を変更します。これはかなり大がかりな設計変更になります。打ち上げは最大1年の延期で本当に済むのでしょうか?

H3ロケットの開発を指揮するプロジェクトマネージャの岡田匡史さん
H3ロケットの開発を指揮するプロジェクトマネージャの岡田匡史さん
2020年2月29日の種子島宇宙センターでの会見時(出所:日経クロステック)
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