米アップル(Apple)はかねてより、顧客のデータやプライバシーを「守るべき権利」として訴えてきた。特に顧客データを用いたビジネスを展開する米フェイスブック(Facebook)や米グーグル(Google)に対して、法規制を課すべきだとの考えを述べてきた。
顧客情報を集めて精度の高い広告で収益を上げるこれらの企業に対しては、米国以外の国や地域でも風当たりが強い。アップルは欧州や日本、オーストラリアにおける法規制の強化を歓迎する考えを示しており、そうした環境下でもビジネスを最大化できることを同社のブランド価値としてきた。
アップルはiPhone上のアプリにプライバシー問題の「穴」があれば、厳しく対処する。最近ではフェイスブックとグーグルに対して制裁を加えた。具体的には、企業向けに展開する「Apple Developer Enterprise Program」で使うデジタル証明書を取り消し、独自に配布したアプリを使用できなくしてしまった。一体、何が起こったのか。
企業向けプログラムの抜け穴を悪用
アップルの「App Store」で公開されているiPhoneやiPad向けのアプリは、同社が全て審査している。開発ガイドラインの順守状況だけでなく、アプリの価値や使い勝手までが審査の対象である。
これも、ユーザーがiPhoneやiPadを快適かつ安全に使用できるようにするためだ。アプリ開発者にとってはうるさい小姑(こじゅうと)のような存在かもしれないが、役に立つこともある。アップルの技術者だからこそ分かる問題解決方法を得られることがあるからだ。
だからこそ、アップルが毎年6月に開催する開発者会議「Worldwide Developers Conference(WWDC)」には世界中の開発者が殺到する。1500ドルの参加チケットが抽選になるほどだ。
アップルは企業の業務アプリのようにApp Storeを介さずに配布する方法として、前述のDeveloper Enterprise Programを用意している。
グーグルは同プログラムを活用し、シリコンバレー周辺エリアで運行する社員送迎バスや社内カフェのアプリを配布したり、「Googleマップ」などの一般向けアプリのベータ版を社内でテストしたりしていた。
同プログラムではアプリの審査プロセスがないことから、必ずしも開発ガイドラインに従わなくて構わない。ここに目を付けたのが、フェイスブックとグーグルだ。両社はユーザー情報を収集するアプリを開発し、一般向けに配布した。
フェイスブックの場合、「Facebook Research」と呼ぶアプリを開発し、一般から募集した13~35歳のユーザーに配布した。スマートフォンの使用履歴を収集する見返りに月額最大20ドルを支払ったという。
グーグルの場合、2012年から「Screenwise Meter」と呼ぶアプリを18歳以上のユーザーに配布。データの監視・分析の許可と引き換えにギフトカードを提供していた。
このため、アップルは規約に違反するとして、全ての企業に対して社内アプリを一般に配布できない状態とした。フェイスブックとグーグルは情報収集アプリを取り下げ、現在は制裁も解除された。