米アップル(Apple)がワイヤレス充電マット「AirPower」の開発を中止したことが、米メディアの報道でこのほど明らかになった。AirPowerは、iPhone 8とiPhone Xのワイヤレス充電対応に合わせ、3つのデバイスを同時に充電できる製品として2017年9月に初めて披露された。だが、実際に製品を見ることなく終わった。
同社が2019年3月に発表した新しいワイヤレスイヤホン「AirPods」では、「Qi」規格に対応したワイヤレス充電ケースも用意。背面には、AirPowerに載せて充電するイラストまで掲載していた。つまり、新しいAirPodsが発売される直前までAirPowerの開発中止は決まっていなかったことが分かる。何があったのだろうか。
ワイヤレス充電に力を入れるアップル
iPhoneは、2017年発売のiPhone 8とiPhone X以降、Qi規格のワイヤレス充電をサポートしている。市販のQi充電器にiPhoneを載せれば、Lightningケーブルを抜き挿しすることなく充電できる。
iPhoneとペアリングして使うApple Watchは、2015年の発売当初からワイヤレス充電をサポートしてきた。技術的にはQiに準拠するとみられるが、独自規格での充電に限定しており、市販のQi充電器と組み合わせて使うことはできない。Apple Watchには専用の丸いワイヤレス充電器が付属し、磁石で位置合わせをすることで確実に充電できるようにしている。
前述した通り、アップルは新しいAirPodsでもQi規格に対応したワイヤレス充電ケースを選べるようにした。このようにスマートフォンとウエアラブルデバイス群は次々とワイヤレス充電に対応している状況だった。
一方、iPadやMacといった大型デバイスはあえてワイヤレス充電をサポートしない姿勢がうかがえる。ただし、新型iPad Pro向けの「Apple Pencil(第2世代)」はワイヤレス充電に対応する。やはりiPad ProとApple Pencilの双方に位置合わせの磁石が仕込まれており、正しい位置で充電できる。Apple Pencilのワイヤレス充電の規格も特に触れられていないが、Apple Watchと同様、Qiベースの独自規格とみられる。
iPhoneが何らかの形で制御?
AirPowerが初めて披露された2017年9月のイベントを振り返ると、アップルでワールドワイドマーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるフィル・シラー氏が、iPhone Xのワイヤレス充電機能を紹介。続けて、「ワイヤレス充電の体験をより良いものにしたい。今日はそのアイデアを少しだけお見せしたい」として、AirPowerの説明を始めた。
iPhone XをAirPowerに載せると、従来のLightningケーブルと異なる充電開始のアニメーションを画面上に表示。さらにApple WatchをAirPowerに載せると、Apple Watchの充電開始のアニメーションもiPhone Xの画面上に表示される。AirPodsのケースについても同様だ。iPhoneが何らかの形で制御する仕組みだったのかもしれない。
シラー氏は当時、デバイス間でコミュニケーションしながら充電すると説明し、「現在の規格では不可能なことだ」とも付け加えた。ワイヤレス充電の規格が進化するメリットをあらゆる人が享受できるようにしたいと述べ、2018年の発売を予告していた。