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 不動産業界では、こうした事業を支えるDX人材の採用を進めています。企業のフェーズが「DX 1.0」か「DX 2.0」かによって、求められる人材像には違いが出てきます。

 まずは「DX 1.0」に向けて足元の体制を整備するため、システムの統合や刷新を進める人材、つまり大規模案件のプロジェクトマネジメントができる人が求められています。実際、システムインテグレーターやコンサルティングファームから不動産業界に転職を果たす事例が増えています。

 そして、「DX 2.0」領域――「攻め」の取り組みにおいては、デジタルを活用したビジネス企画を担える人やデータサイエンティスト、データアナリストなどが必要とされます。ベンチャー企業との共創など、オープンイノベーションを推進できる人も歓迎されます。

 また、スマートシティの開発にあたり、通信、センサー、画像認識などの分野のエンジニアも採用ターゲットとなっています。

 大手Webサービス企業、ネットリサーチ企業、通信事業者、金融機関などで経験を積んだ人たちが不動産業界に転職しています。「スマートシティでの自動運転システム実現に貢献したい」と、自動車メーカーから不動産業界に移ったケースもあります。

異業種転職により広がる「キャリアパス」

 IT業界など異業種の技術者が不動産業界への転身を決めたきっかけとして多いのが、「未来の街づくりを担ってみたいと考えた」という点です。

 例えば大手金融系システムインテグレーターで約10年の経験を積んだAさんは、「社会のインフラとして金融システムを安定稼働させる」というもともとの仕事にもやりがいを感じていました。ただ、金融システムは商材としてハッキリと実体を感じられるものではありません。「一度は目に見える、手触り感のあるものづくりにも携わってみたい」という思いを抱えていたAさんは、有形商材を扱う業界への転職活動をスタートしました。最終的に不動産業界の企業に転職する決め手となったのは、「重厚長大な社風」「案件の規模感」が前職に近くなじみやすかったこと、その一方で「『街』という目に見える商材に関われる仕事だったこと」でした。

 このように業務アプリケーションやWebサービスなどソフトウエアの企画・開発でキャリアを積んだ人にとって、不動産業界は「地図にも残り、実際に人々が暮らす『街』をつくる仕事」「実体や『手触り感』がある事業」として自身の手掛けたIT化・デジタル化が結実する点が魅力なのです。自分が手がけた仕事が「街」という場となり、コミュニティとなり、人々の暮らしにつながります。「子どもに『ここはパパがつくった街なんだよ』と言いたい」といった声も聞きます。

 また、近年の不動産業界では「建てて終わり」ではなく、もっと長期的な視点から「不動産そのものがソリューションである」という考え方が広まりつつあります。コロナ禍を機に社会の様相が変わり、「もうオフィスはいらない」「都心より地方に住みたい」など、企業・人々の不動産に対するニーズも大きな転換期を迎えました。不動産業界も、これからのあり方を模索している最中です。こうした変化の時代には、DXによって新たな価値を生み出せる人材への期待が、経営陣・現場社員・関連会社など、各方面から高まります。

 「IT・インターネット業界出身者が、不動産会社の組織になじめるのか」という不安を抱く人もいるでしょう。しかし、不動産に対するニーズの変化に危機感を抱き、事業を変革したいという希望を持つ企業にとってDX人材は歓迎すべき存在です。実際、ある大手不動産会社では、人事部やDX推進部門に「DX推進人材を採用できたら、うちの部署にも手を貸してほしい」というオーダーが各現場から寄せられています。

 例えばメガベンチャーの事業企画部門で、データサイエンティストとしてキャリアを積んでいたBさんは「今までよりも多くのデータに触れて、スキルアップしていきたい」「面白いデータがありそうな他の事業会社を探したい」と考えて転職活動を始めました。社内にエンジニアが多いメガベンチャーの環境で、周囲と差異化しつつ自分のキャリアをどう積んでいくのか悩んでいたといいます。

 Bさんはさまざまな事業会社を検討していく中で不動産業界に出会い、「手つかずのデータが大量にあり、非常にやりがいがありそう」「今の会社よりもエンジニアの数が少ないため、自分のスキルを会社が重宝してくれる」という点でマッチした大手不動産開発業者に転職しました。入社後は、転職した当初に参加予定だったプロジェクトを越える活躍を見せています。

 このように変革期に事業会社でDX人材としての役割を担うことは、転職者の将来のキャリアの可能を広げます。DXはシステム開発の範囲にとどまらず、現場や経営陣と一緒に「事業」をつくっていく仕事です。その経験を積むことで、将来的により「経営」に近いポジションへステップアップできる可能性が出てくるのです。

小谷野 進司
リクルートキャリア エージェント事業本部 ハイキャリア・グローバルコンサルティング コンサルタント
小谷野 進司 金融機関での法人営業、IT企画・開発を経て、2012年にリクルートキャリアに入社。IT領域を中心に製造、ヘルスケア、建設・不動産まで幅広い業界を担当するキャリアアドバイザーを務め、これまで500名以上の転職支援実績あり。現在はIT・デジタル領域専任のコンサルタントとして、情報システム部門やデジタルサービス企画・開発、新規事業開発などの案件を中心に担当。
山副 あさ
リクルートキャリア エージェント事業本部 ハイキャリアカスタマーサービス部 キャリアアドバイザー
山副 あさ 新卒でIT業界のシステムエンジニア(SE)職に従事。自社パッケージ開発6年、通信系大規模プロジェクトの仕様管理・社内調整を5年務める。2005年にリクルートキャリアに入社。以来、現在までキャリアアドバイザーとしてIT・インターネット業界を担当し、主にプロジェクトマネジャー/コンサルタント/SE/社内SEなどのIT系職種の経験者の転職を支援。