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 「堅いイメージを持っていましたが、銀行を本気で変えていこうという気概を感じました」――銀行への転職を検討していたあるITスペシャリストが、ある時こんな一言をもらしました。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を目指す金融業界では、近年さまざまな変化が起こっています。

 この連載では医療、不動産などさまざまな事業会社のDX推進状況をまとめてきました。今回は金融業界のDXの動きと転職事情を見ていきましょう。

 金融業界のDXについては2015年ごろから、まずはメガバンクをはじめとする大手銀行で動き出しました。デジタル化をミッションとする専門部署が立ち上がり始めたのです。以降、大きく2つの方向性でデジタル化の模索を続けています。

 一つは「トランスフォーメーション」。業務改善、ペーパーレス化、店舗の自動化など、既存の仕組みの効率化、生産性向上を図るデジタル化です。

 背景には日銀(日本銀行)による「マイナス金利政策」があります。経済活性化・デフレ脱却を目的に2016年に導入され、金利が引き下げられました。これにより銀行の融資事業は利益率が低下し、コスト削減への取り組みが急務となったのです。

 もう一つの目的は「イノベーション」です。既存ビジネスにおける収益維持・向上を目指す一方で、海外事業の積極的推進など、これまでにない収益の柱を創ろうとしています。「トランスフォーメーション」が「守り」のデジタル化とすれば、こちらは「攻め」と言えるでしょう。

 新たなビジネスを生み出すにあたり、ITは必要不可欠です。そこで金融機関各社はIT部門のリソースを増強するほか、スタートアップとアライアンスを組むなどして新ビジネスの創出に取り組んでいます。

 こうした動きはメガバンクをはじめ大手銀行が先行していましたが、最近では地方銀行や証券会社でも動きが出てきています。

 とはいえ、金融機関によってデジタル化に対する温度感やスピードは大きく異なります。その差を生むのは「キーパーソン」の存在です。経営トップに「変革」の意思決定力・実行力を持つ人物がいる企業ではデジタル化への取り組みが先行し、すでに形になっています。

引き合いが多いのは「新規事業を生み出せる人」

 金融業界におけるDX人材の採用には、どんな特徴があるのでしょう。他業界の事業会社とは異なるポイントが1つあります。他業界ではDXを進めるにあたって、「事業部長」など責任者レベルの人材を採用するところから始めるケースが多く見られます。一方、金融機関では当初から社内の人材がデジタル化を主導してきました。経営企画やマーケティングなどの部署とデジタル化の兼務からスタートし、続いてDX専任の部署を立ち上げ、ある程度方向性を定めた段階で、不足している知見を取り入れるために外部のDX人材を求めるのです。

 そのため金融業界で求められるDX人材の職種は、事業企画、新規事業開発、デジタルマーケティング、プロジェクトマネジャー、ITエンジニアなど、上流工程から下流工程まで多岐にわたります。

 特に引き合いが多いのは、新たなビジネスを推進できる人です。例えば、金融以外のサービス事業者が金融サービスを組み込むことで新たなサービスを創る「エンベデッド・ファイナンス」(埋め込み型金融・組み込み型金融)が注目を集めています。そのため、金融関連の経験がない人も金融機関のDX人材として採用ターゲットとなり得ます。