国内で宇宙関連のビジネスを手掛けるスタートアップが増えつつあり、転職市場にも変化が見られるという。宇宙・ロボティクス領域の新規事業・スタートアップの採用事情に詳しい、リクルートの新堂尊康氏が背景を解説する。
過去数年間で、国内で宇宙ビジネスを手掛けるスタートアップが増加しています。同時に転職市場でも宇宙に関わるポジションが求められるようになってきました。その結果、ハードウエアだけでなく、実はソフトウエアのエンジニアにも転職のチャンスが広がりつつあります。今回は近年の宇宙ビジネスに関わるスタートアップの現状と、その転職市場における変化を見ていきましょう。
一昔前、宇宙産業といえば国が主導的な役割を果たし、重厚長大な電機メーカーなどが開発を手掛けるイメージが強かったのではないでしょうか。ところが米国ではジェフ・ベゾス氏が設立した米Blue Origin(ブルーオリジン)、イーロン・マスク氏が率いる米SpaceX(スペースX)など民間主導で宇宙ビジネスを手掛ける企業が増えてきました。
国内でも同様に民間の宇宙スタートアップが勃興し、ベンチャーキャピタルも投資先として注目しています。近年、ベンチャーキャピタルは中長期的な投資先として、ハードテック系のスタートアップを研究しています。ハードテックとは「技術的なブレイクスルーを必要とする、ハードウエア(物理世界)とソフトウエア(仮想世界)の両方にまたがる難しい課題」のこと。こうした先端分野の投資先として、宇宙ビジネスが有力候補の1つとなっているのです。
近年の宇宙関連スタートアップの注目事業は5つ
ひとくちに民間主導の宇宙ビジネスといっても、手掛ける事業はさまざまです。近年、宇宙ビジネスを手掛ける企業の事業内容は、主に5種類に分けられます。
人工衛星を利用した通信サービスを提供する。
●宇宙ビッグデータ
人工衛星から取得したデータを使い、地図などの情報サービスを提供する。
●惑星探索・資源探索
月など他の星の調査、資源の探索・資源開発などに取り組む。
●宇宙旅行
従来よりも安価な有人宇宙飛行の開発とそのサービス化を目指す。
●その他
スペースデブリ(宇宙ごみ)の除去など、宇宙ビジネス全体の発展に伴って必要となる周辺サービスを提供する。
衛星インターネットに関しては、2022年にスペースXの「Starlink(スターリンク)」が日本でも提供を始めて話題になりました。人工衛星を使えば離島や山岳地など、固定回線の敷設が難しい場所でもインターネットに接続できます。災害などが原因で、固定回線が破損した場合も利用可能です。こうしたインフラ未整備の地域でのサービス、またBCP(事業継続計画)対策としても衛星インターネットが期待されているのです。
関連記事: SpaceXの衛星インターネット「Starlink」体験記、解約してもアンテナは残る?近年の衛星インターネットは低軌道衛星と呼ばれる、地表から2000km以下の軌道を周回する衛星を多数打ち上げてサービスを実現するのが特徴です。スペースXのほか、米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)、カナダのTelesat(テレサット)、英OneWeb(ワンウェブ)などが低軌道衛星を利用したインターネット接続サービスを計画しています。日本ではソフトバンクがワンウェブと、KDDIがスペースXと提携しており、こうした動きは今後も続くでしょう。
もう1つ、ここ数年でニーズが拡大しているのは宇宙ビッグデータの領域です。宇宙ビッグデータのスタートアップでは、超小型の人工衛星に搭載したカメラやセンサーを用いて、地上からはアクセスしにくい場所からデータを収集します。例えば撮影した画像データを災害時にリアルタイムに分析して対策に生かしたり、海事産業などの稼働状況を把握したりといった用途を目指しています。
こうしたスタートアップでは、小型衛星のハードウエアを開発するだけでなく「どういう種類のデータを取得し、どのような精度で分析してサービス化すれば顧客のニーズにマッチするか」も重要です。サービスのユーザーインターフェースも検討する必要があります。
つまりデータの収集システムを構築・運用するデータエンジニアや、顧客に合った分析を実行するデータサイエンティストなども求められているのです。このように宇宙ビジネスのスタートアップでは、ハードウエアだけでなくソフトウエア領域に知見のあるエンジニアにもニーズがあります。実際、筆者が見聞きした宇宙スタートアップへの転職事例をいくつか紹介します。