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 DX(デジタルトランスフォーメーション)人材の募集を始めたものの、思ったように採用が進まず悩む企業は珍しくない。DX人材の採用でよくある課題と改善策を、リクルートでIT分野の転職支援を手掛ける安来裕爾氏が解説する。

 DXを推進する人材の採用に乗り出した事業会社からは、しばしば「募集しても応募がこない」「ニーズに合致する人に出会えない」という声を耳にします。今回は、DX人材の中途採用がうまくいかない企業にありがちな7つの課題と、その改善策を紹介します。

課題1:採用ターゲットの設定が適切でない

 これは求人で掲げた募集職種・タイトル(肩書)や募集要項が、実際の転職マーケット傾向にマッチしていないケースです。この状態では、せっかく募集を開始したのに半年たっても採用できないことがあります。採用の遅れはDX事業の遅れにつながり、結果的に競合他社の後塵(こうじん)を拝することになりかねません。迅速な採用を実現するには、まずDX人材について「転職マーケットの職種相場観」をつかむことが重要です。具体的にはDX人材が属する業界、職種、年収などの情報を把握しましょう。

 特に「DXの定義や目的が曖昧な企業」や「ITエンジニア採用ノウハウが少ない企業」「デジタル系の技術知識に詳しすぎる企業」などはこうした課題を抱えがちです。

 本連載の前の記事でも紹介したように、企業ごとに「自社にとってのDX」は異なります。DXの定義や目的が曖昧では、適切な人材を採用できません。「とりあえずデジタル技術に詳しい人を採用しよう」ではうまくいかないのです。

 まず、DX人材を募集する前に改めて自社の課題を整理し、DX人材に求める専門スキルやノウハウを検討します。それを踏まえて採用すべき人材に優先順位を付け、絞り込むとよいでしょう。

 また、DX人材としてニーズの高い「データサイエンティスト」などのデータ関連職種では、企業側が1人採用枠の求人にあまりにも多くのスキルを求めたり、求人で掲げた募集職種と業務内容にギャップがあったりするケースが少なくありません。

 例えば1人だけの採用に対して「機械学習・統計解析の知識・経験」「Python、SQLなどを使ったデータ抽出・分析」「Hadoopやデータウエアハウス(DWH)、ビジネスインテリジェンス(BI)の知識」と、データ分析に関するあらゆる技術要素を求めることがあります。

 またデータ関連の職種には、データ分析担当者、データサイエンティスト、データエンジニア、データアナリストなど様々なものがあります。転職マーケットにおいて、各職種の業務内容・採用条件には一定の傾向があります。ところが企業の採用担当者がマーケット傾向を把握しておらず、募集要項に掲げた職種と業務内容ならびに採用条件にギャップがあるため、DX人材が応募を敬遠することも珍しくありません。

 こうした「転職市場の現実と募集要項のギャップ」は、DXの定義が曖昧な企業だけでなく、実はデジタル技術に知見を持つ企業でも見られます。ギャップを解消してうまく採用を進めるには、自社で絶対的に不足しているスキル・ノウハウを絞り込み、その中で優先度の高いスキルを持つ人材を一点集中して募集することです。幅広いスキルが必要な場合、1つの求人に全要素を盛り込むのは避け、スキルごとに細分化して3~4種類のポジションを募集するのが効果的です。

 ITエンジニアの採用実績やノウハウが少なく、DX人材の採用が難航する企業もあります。この場合は、まずDX事業全体のプランニングができる「責任者」クラスの採用をお勧めします。このポジションには、デジタル技術の高い専門性は必ずしも必要ではありません。ビジネスサイドの視点から事業課題を分析し、デジタル技術の概要を理解したうえで施策を立案できることが重要です。DX事業の立ち上げ期には、自社で「どんなデジタル技術を活用すれば課題を解決し、目標を達成できるか」「どんな企業と提携すべきか」などを分析・計画できる人材が必要なのです。

 将来的にDX事業の拡大期に至ったら、技術レベルの高いDX人材を採用する必要性も出てくるでしょう。DX事業では、他社の専門性・リソースを活用する「オープンイノベーション」の取り組みも重要です。そのため専門性の高いDX人材を求める際は、ビジネス上の目標や課題の状況を踏まえ、自社採用すべき職種と外部のIT企業と協業・委託すべき部分を見極めて採用を進めましょう。