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 IT人材のニーズが高まって企業が競うように採用を進めている昨今、転職市場に今までにない変化が出てきたという。ITエンジニアの転職事情に詳しいリクルートの丹野俊彦氏が背景を解説する。

 DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める企業が増えたことから、IT人材のニーズが急増しています。プロジェクトマネジメントなど豊富な経験を持ち、即戦力になり得る人が転職活動すると、同時に3~5社から内定を得られる状況です。

 著しいニーズの上昇に伴い、ITエンジニアの転職市場ではこれまでの常識とは異なる傾向が出てきました。転職時の年齢、転職時に選べる職種などの面で融通が利くようになってきたのです。

40代以上の転職が増える傾向に

 まず数年前と明らかに異なるのは、30代、40代での転職が増えている点です。以前は主に20代を採用していた企業が、30代、40代以上に内定を出す事例が増加しています。

 企業からよく挙がるのは、「組織上、30代が不足している」という声です。2008年のリーマン・ショック後、2011年の東日本大震災後に新卒採用を控えたため、組織の年代構成のバランスが崩れている企業が多いのです。リーダークラスの30代の不足を中途で補いたくても、採用は簡単ではありません。他社も同様にこの年代の採用・育成をしてこなかったため、ターゲットとなる人材がそもそも希少なのです。そのため、必要なスキルを備えた40代を迎えるケースが増えています。

 今までは一般に、「35歳になると転職は難しい」というイメージが流布していました。実際、これまでITエンジニアのキャリアパスの王道は「20代はシステムインテグレーターで経験を積み、30代で事業会社の情報システム部門に転職し、そこで定年まで働く」のが一つのパターンだったのです。

 ところがここ数年、事業会社で社内SE(システムズエンジニア)を務めてきた40代の転職が増えてきました。例えば、近年はコンサルティングファームが特定業界のDXを支援する部署を立ち上げる、または強化する動きが出てきています。その際、想定顧客となる業界から社内SE経験者を採用するのです。

 こうした企業では、獲得したIT人材に対する「リスキリング」も盛んです。特定の業界の業務知識とITのバックグラウンドを備えた40代以上を採用したうえで、今後必要となるAI(人工知能)やデータ活用などの先端技術を習得してもらい、さらなる活躍を促すのです。

 筆者の見聞きした例でも、事業会社に勤務していた40代半ばの社内SEが大手コンサルティングファームやシンクタンクなど3社から内定を獲得し、年収アップを果たしたケースがあります。内定を出したのはいずれも、この応募者が転職前に所属していた業界向けのDX支援策を強化しつつある企業でした。

 もっとも、「この特定業界で経験を積んだITエンジニアが欲しい」といったニーズは流動的で、しばしば一過性のものであることは覚えておきましょう。転職活動を始めたタイミングによっては、なかなか意に沿うポジションが見つからないこともあります。その場合、まず今の自分の市場価値を把握し、足りない部分があったら学習を重ねてスキルアップを図ります。さらに常にアンテナを張って情報を集め続け、転職に良いタイミングを計りましょう。

リモートワークの普及で転職活動が手軽に

 もう1つの変化は、ITエンジニアとして選べるキャリアの幅が以前より格段に広がっている点です。この連載の以前の記事でもご紹介しましたが、従来はITエンジニアの転職先として候補に挙がるのはシステムインテグレーター、ソフトウエア開発会社、コンサルティングファーム、事業会社の情報システム部門などが主でした。

 ところが今では事業会社の経営企画、営業企画、人事といった、情報システム以外の部署でITに知見のある人材を求めるケースが増えています。「DX推進室」など、情報システム部門とは別にデジタル化による事業変革を目指す部署を専門に設けている企業もあります。

関連記事: ITから経営企画への転身も、異業種・異職種への「越境」転職が増加する理由

 さらに新型コロナウイルス禍でリモート採用が一般化した結果、ここ数年で転職活動そのもののハードルが下がった点も大きな変化です。

 もともとITエンジニアの勤務先はリモートワークやフレックスタイム制の導入率が高く、平日でも時間の使い方にある程度の裁量がある人が多い傾向です。平日にオンラインで面接を受け、採用過程を進めるのが容易になっているのです。

 正式な応募前に「カジュアル面談」を実施する企業も増えています。具体的な転職意思のある・なしにかかわらず、採用対象になり得るITエンジニアと一度ざっくばらんに対話する機会を設けるのです。それを機に転職を決意する人も珍しくありません。

 以上のように、ここ数年で転職を目指す個人にとっては選択肢が広がり、人材の流動性は高まっています。一方で、企業側はニーズが殺到している優秀なITエンジニアの獲得を他社と競わなければなりません。先ほど紹介したように「即戦力のITエンジニアが同時に3~5件の内定を獲得する」状況で、複数の候補から自社を選んでもらう必要があるのです。では、実際に転職したITエンジニアは何を基準に入社する企業を決めているのでしょう。