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  小売り・消費財業界でデジタル人材の採用が活発な背景には、D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)サービスの構築・運用へのニーズの高まりがある。求められる人材像など、同業界の転職事情について、リクルートで転職支援を手掛ける久保愛美氏が明かす。

 小売り・消費財の業界では近年、自前のデジタルサービスの強化に乗り出す企業が増えています。2018年から2019年ごろ、DX(デジタルトランスフォーメーション)が注目を集め始めた時期から小売りや消費財の業界でもデータ活用など事業のデジタル化に取り組むケースが増えてきました。やがて新型コロナウイルス感染症の流行によって人々の消費行動が大きく変化し、その影響でデジタル化のニーズがさらに高まっている状況です。

 具体的には大手のEC(電子商取引)プラットフォームへの出店から、自社ECサイトへと移行する企業が増加しました。D2Cと呼ばれる、他の事業者を介さずに直接顧客に商品やサービスを販売するビジネスモデルです。D2Cでは自社ECサイトを構えるだけでなく、データ分析などの技術を駆使してマーケティング施策やユーザーエクスペリエンスを改善するのが特徴。そのため、D2Cに対応できるデジタル人材の採用が活発化しています。

 特に引き合いが強いのは、事業会社で自社ECサイトの構築・運用に携わっていたエンジニアや企画・マーケティング担当者などです。ECサイトの構造は、実際には顧客から見える表面的なユーザーインターフェース以上に複雑です。例えば個人情報の管理や商品の登録、売り上げの管理、実店舗との在庫調整など運用・管理側に多様な機能が必要となります。より多くの顧客に、より要望にかなった商品を買ってもらうためには、告知や導線設計にも専門知識が欠かせません。こうしたECサイトの機能の多様さ、運用の複雑さに対応するため、同種のサービスで成功経験を積んだ人が求められるのです。

 大手ECプラットフォームの実務経験者、自社・他社を問わず小売り・消費財業界のデータ活用に関わった経験のあるコンサルタントなども有力な採用ターゲットになります。

 またD2Cサービスを運用する際は、従来は小売店や卸売業者を経由していた商品を直接顧客に届けることになります。そのため、フルフィルメント(受注や配送の管理)、物流管理などの人材の募集も増加傾向です。

全方位的に不足するデータ専門職は各社で採用を競う事態に

 データサイエンティストなど、データ専門職の採用も活発です。自社ECサイトを持つと顧客との直接的な接点が増え、より多くの顧客のデータを自社で扱うことになります。蓄積された顧客データを生かすため、さまざまなデータ専門職が求められるのです。大規模データ基盤を構築・運用し、データを分析しやすい適切な形で取得・加工・提供するデータエンジニア、収集したデータを基にモデルを構築し、データを分析するデータサイエンティスト、データ分析の結果をビジネスの施策に具体化するデータアナリストなど、データ専門職は全般的に不足気味。各社が採用を競う状況です。

 これに加えて、企業によってはデータのガバナンスやプライバシー保護に詳しい法務担当者やインフラエンジニア、セキュリティーエンジニアの採用にも注力しています。背景には、個人情報に関する国内外の法制の変化があります。

 2022年4月に施行された日本の改正個人情報保護法、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)などの傾向を見ると、今後はデータの第三者利用に対する規制が厳しくなると予測されます。さらにWebブラウザーベンダー各社が、サードパーティークッキーの規制に乗り出しています。つまり将来的に、他社から得たデータを基にしたマーケティングは難しくなる可能性が高いといえるでしょう。自社ECサイトの構築は売り上げに寄与するだけでなく、自社の顧客データ(ファースト・パーティー・データ)を蓄積・分析する観点でも効果的です。