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  近年は転職前の仕事と異なる業種、かつ異なる職種に転職するパターンが増えている。こうした「越境」転職が増加する背景には何があるのか。リクルートでIT領域の転職支援を手がける、丹野俊彦氏が明かす。

 近年の転職市場を分析すると、「越境」が1つの大きな特徴といえそうです。リクルートでは2021年8月に、直近の約10年間の転職傾向を分析しました。すると転職前の仕事と異なる業種、かつ異なる職種に転職するパターンが増えていることが分かったのです。

 これは当社の転職支援サービス「リクルートエージェント」を介して転職先が決まったケースを2009年度から2020年度にわたって分析した結果です。転職前後で業種と職種を比較し、以下の4種に分類しました。

・前職と同じ業種・職種に転職したケース(同業種×同職種)
・前職と同じ業種、異なる職種に転職したケース(同業種×異職種)
・前職と異なる業種、同じ職種に転職したケース(異業種×同職種)
・前職と異なる業種・職種に転職したケース(異業種×異職種)

 すると、2017年度以降は「異業種×異職種」への転職パターンが最も多いことが分かりました。直近の2020年度では、36.1%が「異業種×異職種」への転職です。2009年度の24.2%と比較すると、11.9%増加しています。

転職前と転職後で業種・職種が異なるかどうかを4パターンに分類
転職前と転職後で業種・職種が異なるかどうかを4パターンに分類
転職支援サービス「リクルートエージェント」での転職結果を2009年度と2020年度で比較(出所:リクルート)
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 中途採用市場は今や「異業種×異職種」への転職が主流のパターンになっています。前職とまったく異なる世界に越境する転職者が増えているのです。こうした越境転職の増加には、大きく2つの背景があると考えられます。「IX、CXの動き」と「働く個人の意識の変化」です。

IXとCX、2つのトランスフォーメーションが転職も変える

 近年はデジタル技術を使って従来のビジネスやサービスの在り方を根底から変えるDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指す企業が増えています。DXを進めると、特定のサービスだけでなくいずれ企業そのものや、その企業が属す産業も根底から変わることになるでしょう。こうした変化をCX(コーポレートトランスフォーメーション)、IX(インダストリアルトランスフォーメーション)と呼びます。

 あらゆる産業・企業が自らの在り方を変革しようとするのは、ビジネスを取り巻く環境の変化がますます速くなり、予想のつかない展開を見せることがあるためです。過去に例のない状況に対応するため、今までの社内にはなかったスキルを持つ人材を求める企業も増えています。また、DXのような変革を経験した人材はまだ少数派です。そのため、DXプロジェクト未経験かつ異業種・異職種の人材でも、何らかの改革プロジェクトを手がけた人にはニーズがあります。

 もう1つの背景は、働く個人の意識の変化です。平均寿命が延びて「人生100年時代」といわれる昨今、働く人々の間で「終身雇用」より「終身成長」への志向が高まっています。これまでの業種や職種経験にとらわれず、自らの成長機会を提供してくれる成長産業や成長企業を目指して越境する人が増えているのです。

事業会社がIT人材を「企画職」として迎えるケースが増加

 以上のように異業界・異業種への越境が増加する中、ITエンジニアやITコンサルタントの転職においても、これまでとは違う選択をする人が増えています。

 これまでIT人材の越境転職といえば、システムインテグレーターやITコンサルティングファームから事業会社のシステム担当者へ……というパターンが主流でした。しかし最近では「システム担当」に限らず、「事業企画」「新規事業開発」「DX推進」といったポジションへの転職が目立っています。

 新規事業の立ち上げなどに際し、「エンジニア」ではなく「ITの知見を持つ企画担当」としてIT人材が活躍するケースも増えてきました。近年のデジタル技術(IT技術)は単なる業務効率化のツールではなく、企業の経営・ビジネス戦略そのものと密接に結びつくようになっています。そのため、事業企画や新規事業開発へのIT人材の採用が活発化しているのでしょう。

 また「大手企業」「ベンチャー企業」間の越境も活発です。いくつかの事例をご紹介しましょう。