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 自動車メーカーでIT系エンジニアの採用が活発になっている。背景には、自動車を中心とした膨大なデータを活用する新サービスへの取り組みがある。自動車業界で求められる人材像などの転職事情について、リクルートで転職支援を手掛ける戸田洋子氏が明かす。

 3~4年ほど前から、自動車メーカーによるIT系エンジニアの採用が活発です。ネットワークなどのインフラ、セキュリティー、Webアプリケーション、データサイエンティストといった幅広い領域のIT人材が求められており、転職事例も増えています。

 背景にあるのは、自動車を中心とした膨大なデータを活用する新サービスへの取り組みです。これからの時代、自動車は他の機器だけでなく、センサーを通じて人や街などあらゆるものとつながっていきます。自動車業界では、こうして得られる大量のデータを処理する基盤の整備を進めています。「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」として、自動車を取り巻くデータを活用した新サービスの創出を目指しているのです。

 すでに形になっているサービスもあります。例えば「観光型MaaS」では鉄道・旅行業界と連携し、スマートフォン向けアプリなどを通じて個人向けにオリジナルの観光プランをナビゲートします。

 今後、期待を集めるサービスも多様です。例えば近年、スマホから車の鍵を開閉できる「デジタルキー」が実用化されています。スマホにダウンロードしたデジタルキーと行動履歴を関連付け、ユーザーごとにカスタマイズしたサービスを提供することなどが検討されています。

 そのほか医療機器などを搭載した自動車とデータ分析を活用したヘルスケアサービス、配車システムと天気予報データを組み合わせ、豪雨地域に素早く自動車を配するサービスなど、MaaSの可能性は幅広い業界・分野に及びます。

社会への影響力の大きさに期待感を持って転職

 実際、これほど多様かつ大量のデータを基にサービスを開発する業界はそうありません。そのためIT業界から自動車業界へ転職を決意した人からしばしば聞くのが、「世の中への影響力の大きさという点で、『自動車メーカー』を上回るところはなかなかないと思う」という声です。新たに生み出したサービスが、自動車という物理的な製品に結びついて全世界に広まっていくのも特徴です。ソフトウエア開発のような無形商材を扱う業界にいた人の中には、自動車業界のこうしたダイナミズムに魅力を感じて転職するケースも多いようです。

 例えば、インターネットサービス企業から自動車メーカーに転職したAさん(30代)。キャリア構築ならびに転職に関して、「音声対話システムを極める」というこだわりを持っていました。転職活動の結果、「自動車という閉鎖された空間の中で音声対話システムを生かし、いかにユーザーに寄り添うサービスを生み出せるかチャレンジしたい」と入社を決めたといいます。今後、自動運転技術が進化すれば、車内におけるユーザーの自由度は増していくでしょう。Aさんが担当する車内サービスの可能性も広がることが期待されます。

 コンサルティングファームなど年収の高い業界から自動車メーカーのような製造業に転職すると、年収アップにはつながらないこともあります。例えばもともとITコンサルタントだったBさん(20代)は、コネクテッドカーのシステム開発プロジェクト要員として、自動車メーカーに採用されました。コネクテッドカーはインターネット接続機能を備えた自動車です。それまで自動車業界との関わりはなかったBさんですが、クラウドサービスを用いたインフラ構築やセキュリティーシステム導入のプロジェクト経験が買われて採用となりました。

 転職後、Bさんの年収は微減しましたが、「自分が手掛けたシステムがサービスにつながり、世の中に出ていくまでを一気通貫で経験したい。せっかくなら影響力が大きい企業で実現したい」と自動車メーカーへの転職に踏み切ったのです。