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DX推進人材の採用で、多くの企業がつまずくわけ

 このようにDX推進人材の求人は増えています。ところが、思うように採用が進まない企業も多いのです。採用計画を立てながらも、募集をなかなか開始できない企業もあります。

 理由は「この仕事ができるのはどんな人なのか?」を、企業側も分かっていないためです。求人に際して、経験・スキルの要件を明確に定義できていません。

 そもそも、経営層が「DXの進め方」について壁にぶつかっているケースもよく見られます。DXとは、最先端のテクノロジーを活用して経営や事業を変革していく取り組み。テクノロジーに対する経営陣の知見・リテラシーが不足している場合、「自社をどのように変えていくのか」という方向性が定まらないのが悩みの種となっています。「とりあえず詳しい人を役員として迎えよう」といっても、自社の方向性が見えていなければ適切な人材には出会えません。

 一方、感度の高い経営陣は積極的にDXに取り組み、壮大なビジョンを打ち出すのですが、ミッションを受け取った「現場」が困惑するケースが多数見られます。

 例えばこれまで社内の業務効率化などに向き合っていたIT部門が、突然「対・顧客の新サービス開発」など、まったく別方向への取り組みを求められるといった具合です。「何から手をつければいいのか?」「どんな技術やツールが必要で、その知識を持つ人をどこから連れてくればいいのか?」と戸惑ってしまいます。

 人事部門もしかりで、「DX人材を採用せよ」と言われても、適切な人材がどこにいるのかが分かりません。

 とりあえず必要なスキル要件を挙げてみるものの、その要件すべてを満たす人は世の中にほとんどいません。仮にいたとしても、その会社の給与体系で迎えるには無理がある……そこで壁にぶつかってしまって前に進めないことが非常に多いのです。

 それでも一歩を踏み出し、試験的にデータ解析のスペシャリストなどを1人採用してみるという企業もあります。しかし、数千人規模の組織の中で1人だけがデータ解析に取り組んでも、変化は起こりません。DX推進担当として採用された人が経営トップに何か提案しても、トップにリテラシーがないために判断ができず、それ以上はプロジェクトが進まない……といったこともあります。

 そのため転職エージェントでは採用支援にとどまらず、実現したいDXのビジョンや目的に沿って、企業とともに「組織図を描く」「求めるDX人材の要件を定義する」ところから取り組むケースが増えています。例えば、「一定期間は外部のコンサルティング会社の協力を得ながら、このような人材を採用してこの機能の内製体制を整えるところから始める」といった具合に、最初にDXを始める領域や必要とされる人材像を明確にするのです。

 また、DX人材を迎える土壌をつくることも必要です。DX人材はしばしば仕事に対してやりがいや知的好奇心の充足、新技術の積極採用などを求めます。希少価値の高いDX人材を確保するには、既存の人事評価システムや給与体系を変えなければいけない企業もあるでしょう。制度の見直しや風土変革、入社後の研修・スキル開発の体制を整えることも、同時に進めていくべき課題です。

意識せずにDX人材を必要としている企業も

 筆者らがIT人材の採用を計画中の企業にヒアリングをしていると、「DX」というワードは出ていなくても、実は大きなデジタルトランスフォームを目指していることが浮き彫りになることがあります。例えば当初、「我が社は単に情報システム部門向けの人材を求めている」とだけ思っていた採用担当者が、やりたいことを具体的に言語化していく過程ではたと気づくのです。「つまり、本当に必要なのはDX推進を担う人材なんだ」と。

 自社に必要なDX人材を考えたとき、真っ先に「データ解析などをするデータサイエンティストかな」と思う人もいるでしょう。実際、先ほども述べたようにDX人材としての求人は「データサイエンティスト」や「データコンサルタント」などが多い傾向にあります。しかし、実は事業会社で必要なDX人材は必ずしもデータのスペシャリストではないのです。もっと幅広い経験・スキルがDX推進プロジェクトで生きる可能性があります。

 次回は引き続き「DX推進人材」をテーマに、企業のDX推進フェーズごとにどんな人材が求められるか、どんな経験を持つ人にチャンスがあるかをもう少し詳しく解説する予定です。

早崎 士郎
リクルートキャリア エージェント事業本部 首都圏第一統括部 インターネット・金融営業部
早崎 士郎 入社後から一貫して、インターネット領域の企業の採用支援を行う。スタートアップから超大手まで100社以上を担当。現在は同組織にてマネジャー職に従事。
内堀 由美子
リクルートキャリア ハイキャリア・グローバルコンサルテイング部
内堀 由美子 一貫してインターネット領域における転職支援および企業の採用支援に従事。現在は、企画・デジタルマーケティングなどのインターネット専門職専任コンサルタントを務める。