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 数年前に比べてITエンジニアの給与相場が上がり、転職に伴って年収アップするケースが増えているという。背景には、事業会社におけるデジタル技術(IT技術)の位置付けの変化などがありそうだ。リクルートでIT領域の転職支援を多く手掛ける、安来裕爾氏が解説する。

 IT人材のニーズの高まりに伴い、数年前に比べて転職時の年収がアップしている――リクルートが調査した「転職時の賃金変動状況」から、こんな傾向が見えてきました。この調査によると、2021年7~9月にリクルートエージェントのサービスを使って転職したITエンジニアのうち、転職後の賃金が1割以上増えたケースは35%に上りました。3人に1人以上が、転職で年収アップを果たしている状況です。

2021年7月~9月期、転職時に賃金が1割以上増加した人の割合
2021年7月~9月期、転職時に賃金が1割以上増加した人の割合
(出所:リクルート)
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 ITエンジニアの賃金上昇の傾向は、国内の主要人材サービス業界団体が運営する「人材サービス産業協議会(JHR)」の調査「転職賃金相場2020」にも表れています。この調査は2020年4~8月に、国内主要求人メディアと人材紹介会社から求人情報における職種ごとの「募集時最低年収の中央値」「募集時最高年収の上位15%値」の情報を集め、その範囲をまとめたものです。

 「IT(Web/アプリケーション)」関連(首都圏)の職種については、2017年には最低年収の中央値の範囲が「240万~550万円」だったのに対し、2020年には「300万~550万円」へと上昇しています。また、最高年収の上位15%値の範囲は2017年時の「700万~1143万円」から、2020年の「850万~1300万円」へと大きくアップしました。

ITエンジニアの給与相場が上昇する3つの理由

 なぜITエンジニアの賃金が上昇しているのでしょう。背景には、以下の3つの事情があると考えられます。

●あらゆる業界がIT人材の確保に乗り出し、獲得競争が激化
●年収水準が高い企業の採用が増加
●IT部門が「コストセンター」から「プロフィットセンター」に変化

●あらゆる業界がIT人材の確保に乗り出し、獲得競争が激化
 近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組む企業が増え、コロナ禍を機にその勢いは加速しています。これまでデジタル技術(IT技術)とは無縁だった業界も、DXによる業務改革や新規事業の創出を目指してIT人材の採用を開始しました。

 以上のような背景から、もともと不足していたIT人材の獲得競争が激化しています。こうした売り手市場においては、年収が高い企業に優秀な人材が集まりやすくなります。そのため給与額を高く設定し、人材を呼び込もうとする企業が増えています。

 一方で「データサイエンティスト」「サイバーセキュリティー」「クラウドサービス」といった新しい職種に関して、「適正年収」を判断できない国内事業会社が多いのも実情です。これらの職種の年収については、既に同職種で活躍している人が多い大手グローバルIT企業の給与が基準になります。

 大手グローバルIT企業の年収水準は、トップクラスの国内企業の給与テーブルを大きく上回るケースも少なくありません。それでもグローバル競争での生き残りをかけ、新たな給与体系や制度を導入するなどして「適正年収」でIT人材を迎えようとする国内企業が増えつつあるのです。