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●年収水準が高い企業の採用が増加
 スマートフォンやWeb向けのアプリケーション開発を手掛けるエンジニアの多くは、これまでインターネット企業で働いていました。しかし、今ではさまざまな事業会社がアプリを活用したビジネスに乗り出し、自社採用を行っています。金融業界や医薬品業界など、もともと年収水準が高い企業も例外ではありません。こうした企業に転職することが、ITエンジニアの給与アップにつながっています。

 年収水準が高い業界の代表ともいえるコンサルティング業界でも、国内で年間に数千人単位のエンジニア採用が続いています。コンサルティングファームでは近年、経営戦略・IT導入の提案からシステム開発・運用・保守までのトータルソリューションを提供するため、ITコンサルタント・ITエンジニアを大量採用しています。IT企業からコンサルティングファームに移り、100万~200万円の年収アップを果たすエンジニアも珍しくありません。

 なおコンサル業界内では、10年ほど前と比較すると職種・グレードを問わず200万~300万円ほど年収がアップしています。例えば以前は年収800万~1200万円だったポジションに、今では1000万~1500万円でオファーが出ています。コンサル業界が採用における競合となるIT業界の年収水準も、この上昇傾向に引っ張られているといえるでしょう。

●IT部門が「コストセンター」から「プロフィットセンター」に変化
 多くの事業会社にとって、これまで「情報システム部門(IT部門)」は、総務・経理・人事などと同じ「管理部門」「間接部門」の位置付けでした。つまり、会社にとって利益を生まない「コストセンター(コストがかかる部門)」だったのです。

 しかし現在、各社はデジタル技術を活用したサービスや事業を生み出そうとしており、IT部門は「プロフィットセンター(利益を生み出す部門)」へと位置付けが変化しています。

 実際、製造・小売り・流通業界などでIT部門を強化している企業では事業変革が進み、売り上げが上がっているケースが見られます。IT部門はコストカットの対象から、投資対象へと変化しました。そのためIT人材に対しても、しっかり投資するようになったのです。

年収200万~300万円アップを果たしたITエンジニアの転職事例

 実際にITエンジニアが転職によって年収アップを果たした事例をいくつかご紹介しましよう。

 大手システムインテグレーターで金融業界向けのシステム開発を手掛けるAさん(30代後半)は、年収900万円強。「マネジメント職に就くのではなく、テクノロジー側からビジネスに関わりたい」という希望から、転職活動を始めました。

 Aさんの志向に合い、かつこれまでの年収を維持できる求人の選択肢は多数ありました。その中で筆者が目を留めたのは、大手サービス企業が設立したDX専門のテクノロジー企業です。Aさんのスキルを評価し、年収も900万円以上になる可能性が高いと考えました。「やりたいことにマッチしている」と考えたAさんは応募の結果、年収1200万円で迎えられました。

 Aさんのケースでは企業側から大幅な年収アップのオファーがありましたが、ITが本業でない事業会社では、エンジニアの年収相場を把握していないことがあります。例えば前職で900万円の年収を得ていたITエンジニアのBさん(30代前半)は、転職先として複数の企業を検討していました。オファーを出した企業のうちの1社は、医療機器メーカーです。この医療機器メーカーは新規事業立ち上げのプロジェクトマネジャーを求めていましたが、ITエンジニアの採用に慣れておらず、年収相場をつかめていない状況でした。

 そこで筆者は「Bさんを採用したいなら、これくらいの年収提示が妥当」と転職市場における同職種のオファーを参考に金額を提案しました。結果として採用はスムーズに進み、Bさんはその医療機器メーカーに年収200万円アップの1100万円で迎えられました。

 このように、近年のITエンジニアはスキルを生かした転職による年収アップが可能な環境です。ただし、年収アップだけを目的に転職活動しても、なかなか成功しないのも現実です。企業は採用選考の際、ミスマッチを防ぐために「転職後にうちの会社で何をやりたいのか」に注目しています。そこが合わなければ、優秀な人材でも採用を見送るケースがあるのです。

 そのため、転職活動を始める際はまず「自身の経験をどう生かしたいか」「どんな経験を積み、どんなスキルを磨きたいか」「自身の仕事は何に対して貢献できるか」などを考え、整理しておくとよいでしょう。何から始めたらいいかわからない場合は、転職エージェントなどの第三者と一緒に今までのスキルや経験をエピソードベースで棚卸しする方法もあります。棚卸しによって自分の中核スキルや大切にしたいことが整理できると、今後のキャリアビジョンを描きやすくなります。転職活動で重視すべき軸もはっきりするので、求人を比較する際の判断基準も明確になります。その結果、過去の経歴や現在の志向に合い、年収アップもかなうキャリアが見つかる可能性が高まるでしょう。

安来 裕爾
リクルート Division統括本部 HR本部 HRエージェントDivision ハイキャリア・グローバルコンサルティング コンサルタント
安来 裕爾 1997年、新卒で大手通信会社に入社し、営業、サービス企画、ソリューション推進部門を経験。2001年に大手人材紹介会社に転じ、IT領域の転職支援に従事。2006年にリクルート入社。IT領域キャリアアドバイザー、再就職支援業務を経て、2011年より現職。IT領域で年収800万円以上のポジションの求人コンサルタントとして、約450社を担当。情報システム、DX領域において、約6000人のキャリア相談と約1000人の転職支援を実現。