面談の中でも特に重要なのは、「人事による現実的な仕事・会社情報の事前開示(Realistic Job Preview)」でした。「Realistic Job Preview」における「リアリティーのある情報」とは、中途入社者が入社時に抱く不安に応えるような情報です。
「この会社にはどんな制度があるか」「入社したらどんなキャリアを歩めるのか」「入社に当たってのマイナス面は何か」など、中途入社者は転職前後にさまざまな不安を抱きます。こうした周囲になかなか吐き出しにくい不安に、企業のプラス面だけでなくマイナス面まで含め、人事が中立的な立場で情報を提供することが重要です。
定着に効果的なのは「細かい雑談の積み重ね」
リモートワークが普及した近年は、オンボーディングもある程度オンラインで実施する企業が増えています。中途入社者をオンラインで受け入れ、定着を促すのは難しい課題で、採用先の企業も試行錯誤しているところです。
ある企業では社内会議システム上に、オンラインでいつでも質問できる「部屋」を用意。この「部屋」に先輩社員が常駐し、最近入社した社員が質問などをしやすい仕組みを作っています。また人事主導で上司、隣接部署のメンバーなどとオンラインランチを設定し、既存社員との交流を意図的に増やしているそうです。
また別の企業では、中途入社者から「そもそも誰に何を聞いていいかわからない」という声が挙がっていました。この悩みに応えるため、社員の自己紹介シートを作成し、「どの相談をどの社員にするといいか」が分かる一覧を社内で公開したといいます。
いずれも、かなりの労力をかけた取り組みです。こうしたコミュニケーション促進の施策が有効なことは、「中途入社後活躍調査」の結果にも見て取れます。
2018年の「中途入社後活躍調査」では、離職率の低下に最も有効なのは「定期的な上司との面談」との結果が出ました。これを受けて2019年の調査では、上司とのどのような種類のコミュニケーションが有効かをもう少し詳しく分析しました。すると離職意向に特に影響しているのは、「短時間でも雑談していること」、パフォーマンスに特に影響しているのは「短時間でも仕事の意義に関する会話をしていること」と分かりました。
会話については、短時間でもいいので細やかな声掛けや雑談を積み上げ、総量を増やすことが有効です。テレワークの普及で上司や同僚と同じ場所で働く時間も少なくなる中、入社間もない社員に対しては一定量のコミュニケーションの確保が求められます。入社直後は分からないことが多いため、周囲も「おせっかいかな?」と気を回し過ぎず、積極的に関わってフォローしていく姿勢が重要です。
企業活動の中で、良い人材の確保は年々重要度を増しています。ただ、単純に採用を促進するだけでは人材が根付かない可能性もあります。その人の持ち味を発揮し、活躍してもらうため企業側からも働きかけが必要となるのです。こうしたオンボーディングの積み重ねが、今後の企業の成長の差になっていくでしょう。
リクルート Division統括本部 HR本部 HRエージェントDivision HRソリューション部
