全2724文字

 構造的な人材不足が課題となっている昨今、転職者の定着を促す「オンボーディング」を取り入れる企業が増えている。オンボーディングの効果や現状について、リクルートでインターネット関連企業の転職コンサルティングなどを手掛けてきた藤巻萌美氏が解説する。

 少子高齢化などに伴い、近年の日本は構造的な人材不足に陥りつつあります。新卒採用だけでなく中途採用でも人材争奪戦が激化していますが、その一方で入社後半年以内に辞めてしまう人が多く存在するのも事実です。

 実際、筆者が所属するリクルートの転職支援サービス「リクルートエージェント」が1万3041社を対象に実施した「2021年度上半期 中途採用動向調査」によると、2021年4月~9月の中途採用充足率(中途採用計画に対する中途採用実績の割合)が100%以上の企業は17.7%にとどまりました。充足率50%以上100%未満の企業が24.4%、充足率50%未満の企業が46.1%と、企業にとって人材確保が厳しい状況になっていることがうかがえます。

2021年度上半期(4月~9月)の中途採用充足率
2021年度上半期(4月~9月)の中途採用充足率
(リクルートの転職支援サービス「リクルートエージェント」による「2021年度上半期 中途採用動向調査」より。調査対象は1万3041社)
[画像のクリックで拡大表示]

 こうした現状を踏まえ、近年の人事担当者が力を入れ始めているのが「オンボーディング」と呼ばれる定着施策です。オンボーディング(on-boarding)は、直訳すると「船・列車・飛行機に乗り込んでいる」という意味。ここから意味が派生し、現在は「企業に入社する人を受け入れる」プロセスを表す人事用語にもなっています。

 特に採用難易度が高いエンジニアを必要とするIT業界などが、積極的にオンボーディングを取り入れる傾向にあります。筆者が担当するインターネット業界でも、数年前からオンボーディングに取り組む企業が増えています。

 さらに最近ではコロナ禍の影響でリモートワークが増え、社員同士が物理的に分断された状況でどう社内コミュニケーションを活性化するかが重要な課題です。そのため「組織活性」「エンプロイーサクセス」「インナーコミュニケーション」といった職種を導入し、社員の定着・活性化を包括的に担う専任担当者を置く企業も出てきました。以前はオンボーディングのような定着施策は、主に採用や人事制度の担当者が兼務しているケースが多かったのです。

実は入社前から始まっている「オンボーディング」

 では、企業の担当者が中途入社の社員(中途入社者)の定着のため何に取り組むべきかを見ていきましょう。オンボーディングは「採用して終わり」のプロセスではありません。入社時だけでなく、入社前から始まって入社後も続く、中途入社者と企業との間のコミュニケーションプロセスと考えた方が適切です。

 中途入社者のパフォーマンス向上や、離職率の低下に有効な対策の一つが「面談」です。例えばリクルートが2018年、2019年に実施した「中途入社後活躍調査」では、中途入社者のパフォーマンスアップには「人事との面談」が好影響との結果が出ています。

 「中途入社後活躍調査」(2019年)では「現在、周りと比べて、高い評価を受けている方だと思いますか」という質問に「非常にそう思う」「どちらかといえばそう思う」と答えた人を「パフォーマンス発揮者」、「どちらかといえばそう思わない」「全くそう思わない」と答えた人は「パフォーマンス不十分者」に分類しています。入社前・後ともに人事とコミュニケーションしている人に占める「パフォーマンス発揮者」の割合は、50.5%です。一方、入社前・後ともにコミュニケーションなしの場合、「パフォーマンス発揮者」の割合は22.7%にとどまりました。