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 事業会社でDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う人材の採用が積極化している。業種ごとにDXに取り組む目的や、求められるDX人材には違いがある。今回は「製薬業界」のDXと転職事情について、リクルートキャリアで転職支援を手がける森亮二氏と鶴岡通氏が明かす。

 当連載で以前、事業会社においてDXを推進する人材の採用が活発化していると解説しました。DXに取り組む企業はさまざまですが、その人材ニーズは業界ごとに異なる部分もあります。今回は「製薬業界」のDX動向と採用ニーズを見ていきましょう。

「薬による治療」を越えたビジネスへの指向がDXを後押し

 製薬業界ではここ1~2年でDXへ取り組む企業が増え、今もその勢いは加速しています。背景には大きく2つの事情があります。

 1つ目は、製薬企業が既存事業の枠から飛び出そうとしていることです。キーワードは「ビヨンド・ザ・ピル(Beyond the pill)=医薬品を超えて」。「薬による治療」にとどまらず、その前段階である「予防」や、治療後の「予後・介護」も組み合わせたソリューション事業の展開を目指す企業が増えています。

 もう1つの背景は、製薬におけるデータ活用の可能性の拡大です。これまで、製薬業界はデジタル化が難しいといわれていました。個人情報保護の観点から、治療データの使用に制限が設けられていたからです。

 しかし近年、「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」(次世代医療基盤法)などの成立によって、「リアルワールドデータ」と呼ばれる匿名化された患者単位のデータ活用の可能性が開けました。リアルワールドデータを活用することで既存の研究・開発・生産・販促プロセスを効率化したり、新しいビジネスを立ち上げたりする動きが出てきたのです。もちろん他の業界と同様、「働き方改革」の側面からDXを推進するケースもあります。

 いち早くDXに乗り出したある大手製薬会社は、2019年にDX推進部門を創設しました。20年以降も、各社でDXの専門部署を立ち上げる動きが相次いでいます。まだまだ手探りではありますが、多くの製薬会社が10年程度の長期ロードマップを描きつつ、DXへの取り組みを進めている最中です。