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崩壊の顛末(てんまつ)

 多種多様の材料や副資材を使い、大勢の作業者による手作業によって製品を造り上げている工場がある。これをL工場と呼ぼう。L工場では、顧客からの要望を受けてカスタムメードの製品を造っていた。製品の種類自体はそれほど多くはなく、どの製品でも同じ工程を経ていた。しかし、大きさや色、形状など個々の仕様はばらばらだったため、使う材料の種類や副資材の数はさまざまだった。

 この工場では、部品同士を貼り合わせる際の仮止めに金属製のピン(以下、金属ピン)を使っており、「木づち」を使って金属ピンを部材に叩(たた)き込む作業を行っていた。箱から取り出した金属ピンを、治具に固定した部品の所定の位置に叩き込むのだが、つかみ損ねたり叩き損ねたりして床に落とすことがあり、その都度拾って廃棄していた。

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 このL工場は、ある時を境に現場の状態が悪化に向かってしまった。きっかけは、生産の大幅な増加だ。生産の増加は作業のスピードアップを現場に求める。そのため、作業者は「いかに速く金属ピンで部品を固定するか」に意識が向いた。その結果、確かに作業のスピードは大幅に向上したものの、作業は雑になって金属ピンをよく落とすようになった。ところが、現場は生産優先の雰囲気で満たされ、誰も落ちた金属ピンを拾わない。床面にはつかみ損ねた金属ピンが散乱し、それが当たり前の光景になってしまった。

 気がつくとL工場は品質が低下した上に製造コストが上昇しており、売り上げは増えたものの、利益率が著しく悪化していた。