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崩壊の顛末(てんまつ)

 顧客からの依頼に応じて加工を受託している工場がある。これをT工場と呼ぼう。T工場は卓越した技術を持っていたため需要が好調で、日々多忙な生産を続けていた。加工の受託を生業としている工場の宿命として、顧客の生産計画の変動に応じて急に依頼数量が増えたり、納期の変更を求められたり、突発的に新たな依頼が舞い込んだりすることを繰り返していた。

 T工場では作業者の熟練した技で、変動の大きなこうした生産をこなしてきた。一方で、次々と顧客から搬入される依頼品により、狭い工場は常にものであふれてしまい、通路や作業場にまでものが積み上がった状態になっていた。そのため、あふれたもののせいで移動にも搬送にも支障が生じ、とても効率の悪い状態になっていた。

(作成:日経 xTECH)
(作成:日経 xTECH)
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 ある時、このT工場を含む工場の生産性向上を目指し、グループ企業全体で「改善検討会」を開くことになった。それぞれの工場の責任者が集まり、グループに属する各工場を訪問して、工場の課題に対する意見交換やアドバイスを行う取り組みである。各工場が単独で悩むよりも、多くの経験値を活用して改善活動を促進したいというのがグループ企業の思惑だった。

 T工場がその検討会の会場となった際に、工場長はいかに自分の工場が厳しい状況に置かれているかを力説した。それに対し、経験豊富な参加者からは、さまざまな実践的な取り組み案が提示された。ところが、工場長は「その案は既に実施済みです」「その案はこういう理由があるから無理です」などと、参加者から提示された提案をことごとく否定し却下していった。結果、その検討会は全く建設的な議論が成立しないまま終了してしまった。それ以降、グループ企業内で工場長同士が集まることは何度かあったが、T工場の工場長は誰からも相手にされなくなり、次第に孤立していった。

 人からのアドバイスに耳を傾けず、自分の工場が置かれた厳しい状況を正当化して「自分の工場は他とは違う」「やれることはやっている」とかたくなになってしまった工場長の下で、自分たちは一生懸命やっているのだから何が悪いのだと工場長に同調する作業者と、現場が良くなる姿を思い描くことができずに失望する作業者に分かれた。結果、後者の作業者の多くが次々と現場から去って行った。