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崩壊の顛末(てんまつ)

 顧客から加工を受託している工場がある。これをX工場と呼ぼう。この工場では顧客の要求に応じ、さまざまな加工を施した製品を納品している。X工場の加工技術には定評があり、これまで比較的順調に受注し続けていた。しかし、年々押し寄せるコスト低減の要求はこのX工場でも例外ではなく、優れた技術にふさわしい良好な利益率を確保することが難しくなってきた。

 そこで、創業者一族出身の社長は、ベテラン作業者の腕に頼った工場管理ではこれからの時代は生きていけないと考え、これまでの取引先のツテを頼って工場をより良くしてくれそうな、マネジメント経験が豊富な人物を工場長に招き入れた。

 新たに工場長に就任したA氏は、この工場に対してある仮説を持っていた。それは、工場がうまく利益を出すための管理、すなわち生産管理が適切に行われているかどうかに問題があるのではないかというものだ。その点を探るため、A市は工場の中の管理状況をつぶさに観察することにした。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 観察の結果、A氏の仮説は的を射たものであった。X工場では、ベテラン作業者のカン・コツ・経験に依存した管理が行われていた。例えば、ある加工品の注文に対し、「これはいつ頃に完成するのですか」とベテラン作業者に問い掛けてみたところ、「今日中には仕上がりますよ」との返答。さらに突っ込んで「今日のいつ頃ですか」と問い直すと、「今日中に仕上がればよいので、それに合わせます。間に合わせますから、とにかく大丈夫です」とにべもない。

 A市は別の作業者に「今日の予定数量はいくつですか」と問い掛けてみた。すると、「大体100個くらいです」という言葉が返ってくる。「大体では分からない。生産計画上はいくつを予定していますか」と突っ込むと、「ですから、大体100個程度です。その日の進捗にもよります」とイラ立った返事だった。

 こうしたやりとりを経て、A氏はX工場では、どの作業をするのにどれくらいの時間をかけるべきか、決められた時間内にいくつ作業すべきかについて、極めて曖昧(あいまい)な状況で生産していることを見抜いた。これでは厳しいコスト競争の中で、確実に利益を生み出す工場にはならないと強い危機感を持ったのだった。

 だが、期限について不明瞭な作業者の意識を完全に変えることはできず、結局、X工場は十分な利益を出せない工場になってしまった。