崩壊の顛末(てんまつ)
日本にある本社工場と協力しながら、海外で操業を行っている工場がある。これをD工場と呼ぼう。本社工場は主にカスタム対応製品の生産を担う。一方、海外工場であるD工場は、ある程度仕様が決まった標準製品を生産している。
あるとき、日本国内で主要な構成部品のトラブルが発生した。本社工場のスタッフは原因を調べるものの、解決策を見いだせずにいた。だが、同じ構成部品を使用しているD工場の製品では問題が起きていない。そこで、本社工場のスタッフは、D工場の製品と本社工場の製品にどのような違いがあるのか「変化点」に着目し、さまざまな作業工程のデータ分析を試みていた。既に顧客にまで問題が波及しており、早急に状況を打開しなければならなかった。だが、D工場の動きは遅く、データを要求してもすぐには出てこない。この状況に本社工場のスタッフはいら立っていた。
ところが、D工場の日本人スタッフは本社工場に対して不満を募らせていた。彼らも本社工場出身で、品質トラブルやクレームなどで苦労した経験を持つ。トラブル発生時の苦労はよく知っていた。それでも、本社工場の対応をどうしても許せなかったのだ。
本社工場からの第一報は、ある構成部品の特性データを過去数年にわたって調査し、すぐに報告してくれというものだった。その際、細かな理由の説明などは一切なく、ただ「トラブっている。すぐに調査結果をくれ。数時間以内に」という切羽詰まったメールが来ただけだ。緊急性を察したD工場は現地スタッフを召集し、作業工程で保存されているデータや作業記録をすぐにまとめて本社工場に送った。同時に、通常は保存していないデータを構成部品メーカーに緊急に問い合わせるなど、最大限に努力して、何とか数時間で本社工場に報告した。
ところが、本社工場からは、送ったデータについてのコメントは一切なし。全く別のデータの要求が「1時間以内に頼む」という“枕詞(まくらことば)”付きで飛び込んできた。しかも、同様のことが何度も繰り返された。D工場の日本人スタッフの頭の中は「結局、今日本では何が起きているんだ? 我々は何をすればいいんだ?」と疑問符だらけになっていた。そこに本社工場から1通のメールが届いた。「とにかく遅い。この程度のデータ収集に1時間もかかるなら、顧客の要求には到底応えられない。D工場の仕事のやり方には問題がある」と。
このメールで、D工場では日本人工場長の堪忍袋の緒が切れた。すぐさま本社工場に電話をかけ、メールの発信者を呼び出すとこう言った。「こっちの事情を分かった上で言っているのか。文句があるなら、おまえが、ここに来て、やってみろ!」と。