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崩壊の顛末(てんまつ)

 経験豊富なベテラン作業者が現場の切り盛りをしている工場がある。これをI工場と呼ぼう。I工場では多種多様な顧客の要望に、ベテランの作業者が長年の経験を生かして対応していた。「困ったときはI工場に頼め」と業界で言われるほど高い評価を得ていた。

 しかし、他社の工場と同様に、I工場でも世代交代の波が押し寄せていた。この十年でベテラン作業者たちが次々と定年退職で会社を去り、数年前には経営者も若社長へと代替わりした。I工場では世代交代が進んだことにより、現場の随所で活気のある若手作業者が中核的な存在に育っていった。人員構成の変化に伴い、企業風土が変わりつつある中で、若手作業者と若社長の間で工場を良くするための熱い議論が交わされるようになったのだ。

 実は、若手ながら現場の中核人材になっている作業者たちは、ベテランや先輩から明確な形で作業教育を受ける機会がなかった。そのため、技能の習得で苦労した経験を持っていた。その経験から、これから入ってくる新人には同じ苦労をさせたくないという思いが強かった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 若手作業者たちの強い思いを感じ取った若社長は、現場の若手作業者を中心としたメンバーを集め、改革プロジェクトを立ち上げることを決断した。I工場の改革プロジェクトは、次世代を担う作業者が働きやすく、かつ自由闊達に改善活動に取り組める企業風土をつくるべく、大きな期待を背負ってスタートを切った。

 ところが、改革プロジェクトを進めるうちに、現場には嫌なムードが漂い始めた。活躍の場を得た若手メンバーからはさまざまな意見が出てくるにもかかわらず、現場を取り仕切っている古参の課長が大きな抵抗勢力になっていることが分かってきたのだ。この課長は、若社長の肝煎りのプロジェクトなので、あからさまな抵抗は見せない。だが、裏では改革プロジェクトの活動を阻止しようと動いていたのだった。

 例えば、表向きは改革プロジェクトから提示された改善案を褒める。ところがその一方で、改善案をそのまま放置したり、改善案の討論会を開いている時にあえて不急の仕事を指示したり、改善案を実行しようとするとわざと別の手段を他のメンバーに命じたりと、狡猾(こうかつ)なやり方で邪魔するのだ。現場では古参の課長の力は強大で、社長直轄のプロジェクトといえども、若手作業者が課長に対して物申すことは難しい。やる気に満ちた若手メンバーは抵抗に直面し、次々と活動の意欲をなくしていった。結果、改革プロジェクトは成果を出せずに終わってしまった。