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崩壊の顛末(てんまつ)

 設備への改善活動で定評のある工場がある。これをK工場と呼ぼう。K工場では、過去の経緯から設備技術部門の力が非常に強く、設備の高稼働と高効率に向けた徹底した取り組みが行われていた。同部門に触発され、製造部門も負けじと効率化や省人化などに積極的に取り組んでいた。そのため、人と設備の双方が切磋琢磨(せっさたくま)しながらレベルアップするという好循環が生まれていた。

 ある時、設備技術課長が中堅技術者に対して設備の改良を指示した。既存設備に最新の機能ユニットを取り付け、生産能力を大きく向上させるというのが狙いだった。設備投資にはかなりの費用がかかると想定された。だが、設備能力の向上がもたらす効果を重視し、「設備投資を実行すべきだ」という判断に至った。結果、期待した通りに設備の能力は高まり、製品1単位当たりの加工時間を大幅に短縮できた。それに伴って設備運転にかかる作業時間も削減できた。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 その直後、新任工場長のA氏が赴任してきた。前任者からはK工場が改善意欲の高い工場であると聞いていた。ところが、実はA氏はそうしたK工場の評価に疑念を抱いていた。改善活動の成果が毎年華々しく伝えられる割に、経営数字が良くなっていないように感じていたからだ。

 そこで、A氏は赴任前にK工場の経営状態を把握すべく、損益計算書や貸借対照表などを確認することにした。その結果、K工場の意外な姿が見えてきた。この工場は積極的に繰り返される設備投資により、固定資産が増える一方だった。ところが、売り上げや利益は足踏み状態。いや、むしろ低下していることが判明したのだ。

 K工場は盛んな改善活動で高い評価される半面、もうからない工場だったのである。