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崩壊の顛末(てんまつ)

 生産設備の微妙な使いこなしに長(た)けた工場がある。これをK工場と呼ぼう。K工場では材料の状態やその時々の気候に応じて、設備の設定を微調整することで高い品質を実現していた。そのため、現場には多くのノウハウ(暗黙知)が存在しており、それらのノウハウを継続するために、「見て覚えろ」「経験が物を言う」といった昔ながらの指導が行われていた。

 こうして成長してきたK工場だが、個人のスキルに依存した生産を続けてきた結果、多くの職場が問題を抱えるようになっていた。管理や仕事の方法がそれぞれの現場任せになり、標準作業の概念すらない無秩序な状況に陥っていたのである。

 この状況に危機感を抱いたのが、工場長に就任したA氏だった。現場経験の豊富なA氏は、個人のスキルではなく組織のスキルで仕事ができる工場を目指そうと5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)推進など徹底した現場の基礎づくりに取り組んだ。A氏の強い指導力もあり、現場はみるみるきれいになった。雰囲気も変わり、若手からも作業の改善案が出るようになった。同時に、設備の故障箇所に気づいたり、行方不明だった治具がホコリの山に埋もれた状態で発見されたりと、現場のさまざまな問題点が見えるようになって生産性も管理レベルも大きく向上したのだった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 ところが、次の工場長の交代により、現場の変革は違った方向に大きく舵(かじ)を切られることになった。後任の工場長のB氏は、厳しく成果を求めるスタンスを明確に打ち出し、現場で取り組んでいる基礎力強化の活動に対して、公然と効果を疑問視したのだ。B氏は「そんなことよりも、もっと早く数字が出ることをやれ」と現場の人たちに即効性のある取り組みを求め、すぐに効果が出ないと厳しく叱責した。

 現場のメンバーは工場長(A氏)の下で、地道な基礎力強化の活動によって品質やコストに関する力が徐々に高まりつつあると実感していた。現場を良くすることに大きなやりがいも感じていた。ところが、そのやりがいある活動を真っ向から否定する形で、新たな工場長(B氏)から厳しい言葉を投げ掛けられることになった。これにより、現場は「自分たちがやってきたことは何だったんだろうか?」と混乱し、多くの人間が疑心暗鬼に陥った。ついには、B氏だけではなく管理者に対しても現場は不信感を募らせて改善への意欲をなくし、ただ無気力に指示に従う状態になってしまった。