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崩壊の顛末(てんまつ)

 他社にはないフットワークの良さで顧客からの支持を得てきた工場がある。これをN工場と呼ぼう。N工場では「とにかく顧客の要望は全て聞こう」という考えをモットーに、納期や生産数量の急な変更はもちろん、既に調達や生産が始まりつつあるタイミングの製品であっても、求められた変更にできる限り対応していた。そのため、顧客からは「使い勝手の良いサプライヤー」という好意的な評価を受け、堅調な受注を維持してきた。

 これらの評価は、ひとえに現場のメンバーたちの密なコミュニケーションの賜物(たまもの)だった。生産に関する変化(仕様や数量、納期の変更など)があったときは、関係するキーパーソンたちが即座に集まり、何をしなければならないかをその場で決め、直ちに実行に移すという形で業務を遂行していた。かつては、顧客の要望を全て聞くための臨機応変な対応が原因で伝達ミスや指示ミスなどのトラブルが発生することもあった。しかし、「顧客の要望は全て聞こう」という方針に揺らぎはなく、キーパーソンが集まって決定した事項は、その場ですぐに指示書に展開するルールを徹底するなどの工夫を重ね、フットワークの軽い対応ができる仕組みがきちんと出来上がっていた。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 ところが、工場長の交代により、N工場の姿は大きく変貌した。かねて新任の工場長は、N工場の利益水準が社内の他工場に比べて低い点を問題視していた。そこで、着任するとすぐに実態調査を開始。その原因を「顧客の無理な要求に対応し過ぎているため」と捉えた。そのため、工場長は「よほどの事情がなければ、顧客の無理な要求は受け入れない」という方針にかじを切ったのだ。

 当然、顧客と密接に関わってきた技術部門や営業部門からは反対の声が上がった。「画一的な方向転換は無謀。それぞれの事情を踏まえて議論すべきだ」と。ところが、利益率の低さという現実を皆に突き付けつつ、「仕事のやり方を変えなければ業績改善にはつながらない」と強く主張する工場長が押し切ってしまった。

 結果、N工場の受注は減り、売り上げは大きく落ち込んだ。工場の稼働にも影響が出るようになり、利益改善のもくろみは大きく外れてしまった。