崩壊の顛末(てんまつ)
製品寿命が短いために、頻繁に新製品の立ち上げを行っている工場がある。これをR工場と呼ぼう。ある時、R工場の現場は大混乱に陥った。複数の製品の立ち上げ時期が重なった上に、量産が始まる直前になってさまざまな不具合が見つかったからだ。しかし、納期は決まっている。そこで、とにかく量産・出荷にこぎ着けるべく、工場の総力を挙げて問題の早期解決に取り組んだ。
設計部門は、評価を繰り返しながら不具合に対する修正点を仕様に盛り込んだ。製造部門であるR工場では、設計部門から提示された修正点を作業に落とし込むために、工程の変更や治具の改造を繰り返した。こうして、何とか不具合のない製品を出荷して納期を守ることができた。
ただ、工場長には不安な点があった。今回の急場しのぎの対応についてだ。実は、社内のマネジメントシステムで規定された量産開始に関する手順から、大きく逸脱する形で量産まで持ち込んでしまったのである。
R工場のマネジメントシステムは、量産を開始する前に工程を検証し、その内容を踏まえてQC工程図を作製するように規定していた。ところが、今回は量産の立ち上げを優先し、QC工程図の作製はおろか、工程の検証すら十分に進んでいない状態で“見切り発車”した。代わりに、量産しながら後追いでQC工程図を作製しつつ、工程の検証を進めた。さらには、QC工程図や関連する文書の作成日を量産開始前の日付に偽装し、文字通り“帳尻を合わせた” 。ルール(正規の手順)との辻つまを合わせるためだ。規定から逸脱しているが、管理者を中心にR工場の多くが隠し通せると思っていた。
ところが、工場長の不安は的中した。量産立ち上げの混乱で遅れていた顧客の監査が始まったことにより、事態は急変した。顧客企業から来た監査員が不審な点に気づいたのだ。
「この図面ですが、出図日の翌日に『量産評価完了』となっています。1日で、治具を調達して評価を完了させることができたのですか?」。
監査に臨んだR工場の全員が黙り込んだ。様子がおかしいと思った監査員は、普段の監査であれば聞かないような細かいところまで確認した。すると、さまざまなボロが明るみに出た。そして、監査員は最後にこう断じた。「あなた方が我々に示す資料は全く信用できない。監査を中止します」と。大事になって、ようやくR工場のメンバーは事態の重さを認識し、うなだれるしかなかった。