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崩壊の顛末(てんまつ)

 景気の低迷を乗り越えて稼働が盛り返した工場がある。これをS工場と呼ぼう。S工場は、経験に根ざした多種多様な受注製品をこなす能力を持っており、顧客からの旺盛な需要に積極的に応えていた。現場は多忙を極め、皆が徒労感を覚えながら仕事をこなしていた。

 気がつくと、納期管理に影響が出始めた。「あの製品は今どの工程にあるのか」「新たな依頼がきたが、いつ出荷できるのか」といった営業部門からの納期の確認依頼にも、「これくらいでいけそうだ」と曖昧に回答。ところが、回答の通りに出荷できることは少なく、常に納期調整や納期督促が入る状態となった。現場は残業に次ぐ残業で、昼食すら満足にとれない状況に陥った。営業部門から漏れてくる不満に対し、感情的に声を荒らげる場面も増えていった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 この状況に強い危機感を覚えた若手から成る中核メンバーが、問題を解決すべく立ち上がった。彼らは問題の原因が、ベテラン作業者の「KKD」、すなわち勘(Kan)と経験(Keiken)と度胸(Dokyou)にあると捉えていた。これらに頼りすぎているために彼らの指示する生産計画が曖昧になり、現場が右往左往して、営業部門からの納期の問い合わせに回答できないのだと。実際、中核メンバーがベテラン作業者に工程や生産ラインの能力に関して質問しても、彼らは正しく回答できなかった。

 そこで、生産計画のレベルを高めるために、中核メンバーは工程の作業時間や作業実績を記録して分析に取り組んだ。ところが、ベテラン作業者はこれに非協力的だった。「我々は顧客の要求に応じて多種多様な製品を造っている。作業時間はまちまちで、記録しても意味がない」と言い放ち、中核メンバーの活動をあからさまに否定する者すら出てくる始末だ。

 こうして現場での作業時間の調査は暗礁に乗り上げた。結果、現場は改善するどころかさらに混乱してしまった。