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崩壊の顛末(てんまつ)

 新製品がヒットし、生産が急拡大した工場がある。これをU工場と呼ぼう。U工場は新製品の生産ラインを新設し、作業者の教育・訓練を行いながら、複数の顧客の要望に可能な限り対応しようと日々奮闘していた。

 それでも顧客の納期要求は想像を超え、当初の計画からかなり前倒しされた。生産数量も相当な上積みを求められてしまい、現場は混乱。日々の生産で発生するトラブルを工場の総力を挙げて対策しながら、何とか良品を納期通りに顧客に届ける努力を現場は続けていた。

 ところが、このU工場を大混乱に陥れる人物が現れた。営業経験がないままに営業部の統括となったA部長だ。営業部門員の不在時に、たまたまA部長が顧客の1社であるX社からの督促の電話を取ったことで事態が悪化した。

(作製:日経クロステック)
(作製:日経クロステック)
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 実務を担う営業部門員は、顧客とU工場の間に立ってギリギリの納期調整を行っていた。そのことを全く理解していなかったA部長は、顧客の要求に「必ず対応します」と言ってしまった。そして、すぐさまA部長は工場に「他社向けよりも、X社向けの出荷を最優先で対応しろ」と強い口調でねじ込んだ。それまでの調整を無視した話にもかかわらず、工場は営業部長からの指示を断り切れず、対応を了承した。

 ところが、その数時間後に別の顧客Y社からかかってきた催促の電話にも、A部長は「任せてください」と対応。「Y社向けの出荷も最優先だ」と工場に指示した。これにはさすがに工場長も頭にきて「X社とY社と、どちらを優先するのか?」と聞き返すと、A部長は「どちらも優先に決まっているじゃないか」と言い放ち、顧客との約束だからと一歩も引かなかった。

 結局、工場はかなりの無理を重ねてその要求をクリアした。だがその結果、悲惨な結果を招いてしまった。作業者は疲弊し、納期調整で犠牲になった別の顧客から激しいクレームを受けたのだ。その後、A部長が顧客に対して「私が強く言えば工場は必ず動きます」と吹聴していることを知り、工場の人間は皆、怒り心頭に発した。