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崩壊の顛末(てんまつ)

 「品質第一」を標榜し、生産現場の活動方針や人材の育成方針に至るまで、品質に関わるキーワードを掲げて取り組んでいる工場がある。これをV工場と呼ぼう。V工場の品質第一という方針の意味は、品質以外の項目は軽視してもよいという意味ではなく、工場のさまざまな活動において、常に品質が確保されているかを考える。そして、改善活動においては品質確保の視点を必ず盛り込むというものだった。

 例えば、加工時間を短くすることで、生産性を高める取り組み。V工場ではこうした案を検討する際に、必ず改善活動によって起こる品質トラブルの有無を議論するというルールを設けていた。加工速度によって出来上がりの品質に影響が及ぶ可能性が考えられるからだ。ここまで検討して品質上の問題がないことを確認しなければ、改善案を実行しないという良い習慣がV工場には定着していた。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 ところが、工場長の交代により、V工場に好ましくない変化が生じてしまった。新しい工場長のA氏は、「臨機応変」が口癖だ。工場を取り巻く状況は常に変化しており、その変化に応じて行動を変革しなければ、工場は生き残れないという考えの持ち主なのである。

 あるとき、現場が改善案を検討するために皆が集まって議論していた。改善効果は大きいが品質悪化の懸念がある①案と、①案に比べて改善効果は少し劣るものの、品質悪化の懸念がほとんどない②案だ。議論の結果、現場は②案を推すことにした。

 しかし、A氏は即座に「改善効果の大きい①案以外に選択肢はない」と決断した。前任の工場長とは違った価値観の変化に戸惑いながらも、現場のメンバーはA氏の決断に従って、効果の大きい①案を実行することにした。

 改善は成功し、生産性は向上した。ところが、想定していた品質問題が勃発してしまった。これを聞いてA氏は「なぜ事前に対策しなかったんだ!」と激怒した。勇気ある中堅社員が、A氏に対して「我々はこの問題を回避するための案を提案しました。それを却下したのは工場長です」と反論した。工場長批判とも取れる発言にその場は凍り付いたが、A氏は「時と場合によるだろう、今は品質が第一なんだ。お前たちも臨機応変に考えろ!」と怒声を上げた。

 臨機応変といっても、「生産性を重視せよ」と言ってみたり、「品質を重視せよ」と言ってみたり……。作業現場のメンバーは、「結局どっちなんだ? これでは臨機応変じゃなくて朝令暮改だよ」と、こっぴどく叱られる中堅社員を横目に見ながら不満を募らせた。結果、V工場の現場は混乱に陥った。