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崩壊の顛末(てんまつ)

 多くの設備を駆使して生産している工場がある。これをX工場と呼ぼう。X工場では、古い工作機械を使って金属部品の加工を行っていた。工場の内部には常に切粉や潤滑油などが飛散していたが、作業者は皆、「加工作業をすれば切粉が出るのは当たり前」「潤滑油などの油が飛散するのも当たり前」と受け止めていた。この数十年、同じ光景を見続けてきたからだ。

 ただし、年に1度、本社の社長巡視が行われるときは、その1カ月ほど前から設備やその周辺、棚、工具などをきれいに磨き上げることが風物詩のようになっていた。普段のX工場は、例えば、設備の配管が劣化して潤滑油が床面に漏れ出す所があっても、「修理には費用も手間もかかる」と、潤滑油が漏れ出している箇所に大量のウエスを敷いて取り繕っていた。当然ながら社長巡視のときにそうした状態では叱責されるため、直前に設備をきれいに磨き上げ、汚れたウエスを取り除いてごまかしていたのだった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 ある日、校正済みの計測器が見当たらないというトラブルが発生した。出荷納期は迫っており、現場の検査担当者は実験室で使用している未校正の計測器を使って検査を「とりあえずやってしまおう」と考えた。正規の校正はしていないが、実験室で普段から使っているので問題はないだろうと考えて、急場をしのぐ形で不適切な計測器による検査を行った。その後、校正済みの計測器は見つかり、次の生産からは適切な計測器を使うことになったため、この問題は忘れ去られてしまった。

 ところが、しばらくして大問題が発生した。顧客から「製品の寸法が仕様から外れている」というクレームを受けたのだ。品質保証部が出荷時点の検査データを調べても特に問題がなく、なぜ出荷時のデータと顧客の測定データとの間に差が生じたのか理由が分からない。

 その後の調査で、このクレームは不適切な計測器を使った時のものであることが判明。品質不正問題と認定されてしまった。