全2955文字
PR

崩壊の顛末(てんまつ)

 精密な加工技術で顧客から高い評価を受けている工場がある。これをA工場と呼ぼう。このA工場では、経験豊富な作業者が加工設備を最大限に活用しながら、高度で繊細な加工を行っていた。その加工品質は業界の中でも評価が高かった。

 だが、他の工場と同様にこのA工場でも作業者の高齢化を避けられず、若手に対する技能伝承が喫緊の課題になっていた。幸い、このA工場の作業者たちは、若手の教育にとても熱心だった。昨今、製造業の現場に入ってくる若者が少なくなる中で、A工場では入社してきたそれぞれの若手に対し、担当のベテラン作業者を1人ずつ付けた。すなわち、ベテラン作業者が若手作業者とペアを組み、若手作業者に仕事のやり方やポイントを丁寧に教えていった。そのため、若手作業者たちの仕事に対する満足度は他社に比べてとても高かった。

 ところが、困ったことが起きた。丁寧な指導によって若手作業者が作業を覚えて独り立ちし始めた頃に、その問題は起きた。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 あるとき、工程監査に訪れた顧客の技術者が現場の作業を観察してみると、品質に影響を及ぼす重要な工程で、作業者がそれぞれ異なる作業方法を取っていることに気がついたのだ。

 この顧客の気づきは偶然ではなかった。かねて顧客がこの工場から納品された部品を使用する際に、気になることがあった。仕様の範囲には入っているものの、全体の約3割に小さな表面傷が付いていたのだ。品質不具合ではないが、A工場の工程に何らかの原因があると考え、工程監査の際に該当工程を観察した結果、作業者の作業方法にばらつきがあることに気づいたのである。

 工程確認を終えて会議室で監査結果の討議を行う際に、顧客は「なぜあの工程で、作業者のやり方が異なっているのですか」と問題を提起した。さらに顧客は、3人いる作業者のうちの1人が製品の表面を擦(こす)るような動作をしており、これが製品の傷に関係しているのではないかと指摘した。

 この指摘から工場の管理者は作業方法にばらつきがあることを知った。だが、それだけではなかった。3人の若手作業者に指導を行った3人のベテラン作業者もまた、それぞれの仕事のやり方に癖があることを初めて認識したのだった。品質不具合を起こす可能性がある重要な工程だったため、A工場の評価は顧客から疑問符が付けられてしまった。