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崩壊の顛末(てんまつ)

 複数の生産部門が互いに競い合い、切磋琢磨(せっさたくま)して技術を高めてきた工場がある。これをB工場と呼ぼう。このB工場には生産の主力を担っている生産1課と生産2課があり、経験豊富で優れたスキルを持つ2人の課長が、それぞれの部門を率いていた。

 B工場では工場長の方針により、改善活動の促進のために各部門に共通する改善目標を与え、互いに目標達成に向けた競争意識を高める取り組みをしていた。この活動は、生産1課と生産2課が互いに競い合って改善に進むという効果を生み出している一方で、他部門のことを競争相手と認識し過ぎてしまい、部門間での意見交換や連携が阻害されているという問題があった。

 ある時、このB工場は大きな転機に直面した。それは需要の急増による生産の拡大要請だ。B工場の技術が高く評価された故の要請であり、会社としては生産が拡大して利益の増加が見込まれるもので、歓迎すべきことだ。しかし、この急な生産拡大に対応するための各部門の活動が、他部門の作業者に対して大きな不満を生み出す結果になってしまった。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 過去に経験のない急な増産に対し、生産1課と生産2課とでは対応策が根本的に違っていた。生産1課は「作業の見直し」を合言葉に、増産で求められる作業量を考え、現在の業務を冷静に棚卸しした。そして、優先すべき業務とそうではない業務を峻別(しゅんべつ)し、必要性の低い業務を整理することで生み出した時間を、増産対応に充てる取り組みを進めた。

 同時に、徹底した作業の見直しを行い、無駄やロス(以下、ムダ・ロス)の削減にも取り組んだ。ムダ・ロスとは、付加価値を生まない作業や動作のこと。従って、ムダ・ロス削減とは、本来必要のない作業や動作をなくして作業性を高める取り組みだ。活動の途中ではさまざまな問題が生じたものの、作業者の前向きな姿勢によって増産目標を達成することができた。

 一方、生産2課では、生産1課に対する競争意識をむき出しにした課長が、生産1課の取り組みを見て、「あんな悠長な取り組みをしていてはダメだ」とこき下ろしていた。その揚げ句、「短時間で目標の生産数量になるまで全員の努力で必死に頑張れ」と作業者に発破(はっぱ)をかけた。

 もともと「馬力と根性」で高い瞬発力を生み出すのが生産2課の持ち味であり、生産1課に先んじて増産目標を達成していた。しかし、増産が続く中、単純に忙しくなっただけの状況に、作業者は次第に不満を募らせた。やがて、体質改善を中心にした増産対応を行った生産1課に対し、「あいつらは楽をしている」と理不尽な怒りを募らせる者も現れるようになってしまった。