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崩壊の顛末(てんまつ)

 複雑な設備を駆使して製品を造っている工場がある。これをC工場と呼ぼう。このC工場では、複数の設備を並べて生産ラインを構築し、それによって製品を大量生産していた。ライン化した生産工程には工程間の停滞がなく、極めて効率良く生産できるというメリットがある。半面、生産ラインを構成する設備のうち、どれか1つが止まってしまうと、生産ライン全体が停止するというデメリットがある。

 C工場は、顧客の旺盛な需要を満たすために、生産ラインの稼働を高い水準で維持する必要があった。そのため、現場の作業者は生産ラインを構成する設備で「チョコ停(設備の軽微なトラブル)」が発生すると即座に動き、すぐに生産ラインを再稼働させる対応を続けていた。

 中には、根本的な対策を取るべきではないかと考える作業者もいた。だが、「生産数量の確保」という上からの命令の前に、現場にはトラブルを深く追究する余裕はなかった。いつもその場しのぎの応急措置で、1秒でも早く生産ラインを復旧させることが職場の最優先事項となっていた。

(作成:日経クロステック)
(作成:日経クロステック)
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 顧客要求を満たす出荷の維持を実現していたC工場だが、工場長の交代により重大な問題が明るみに出た。新任の工場長は、就任直後から生産現場を巡回し、取り組むべき問題を把握しようと努めた。工場長が最初に気づいたのは、生産ラインに1人多く作業者が配置されていることだった。

 その理由は「設備のチョコ停対応のため」だという。作業者に聞くと「この設備は繊細かつ複雑であり、頻繁に部品の落下や材料の詰まりが発生している。しかし、問題が起きるたびに直ちに対策しているので、生産への影響は最小限に抑えている」と胸を張るのだった。

 そこで工場長は、実際の作業に立ち会いながらトラブル対応時の動作を確認してみることにした。チョコ停が発生すると、作業者が最速で復旧に取り組むと同時に、ちょっとした応急処置を施していた。例えば、「設備内に部品が詰まる」というチョコ停では、部品を取り除き、詰まった箇所を少し曲げて詰まりにくくするなど、技術的な理由や根拠はないまま「とりあえずやっておこう」的な処置を行っていた。

 さらに調べると、設備の至る所がパッチワークのように改造されており、設備の図面と現状は大きく異なっていることが分かった。技術的な理由を考えずに、とりあえず広げてみる、とりあえず曲げてみるといったことを繰り返した結果、設備の原形をとどめない状態になっていたのだ。工場長は、「作業者を1人、トラブル対応に充てているのに、この状態か」と、その場しのぎの対応が美徳のようになっている職場に深い問題があると感じた。